1966年 コオペラティーヴァ・トリネーゼ バローロ・リゼルヴァ 赤ワイン



















1966年のピエモンテ州は、戦後伝説の1961年や1964年ほどの偉大さではないものの、安定した夏と適度な秋の気候に恵まれた誠実な作柄として記録されている。ネッビオーロは10月後半から11月にかけてゆっくりと完熟し、酸とタンニンの骨格を備えたクラシカルなバローロが生まれた。とりわけ重要なのは、この1966年こそがバローロにイタリアの原産地呼称統制(DOC)が付与された記念すべき年であるという点で、本ヴィンテージのリゼルヴァはバローロDOC制定元年の最初期の作品として歴史的意義を持つ。リゼルヴァはDOC規定により最低5年(うち4年は木樽)の熟成を経てから出荷されるため、本品は半世紀以上にわたる蔵での貯蔵を含めた六十年近い歳月を瓶に閉じ込めている。
クーペラティーヴァ・トリネーゼとピエモンテのカンティーナ・ソチアーレ
クーペラティーヴァ・トリネーゼ(Cooperativa Torinese)は、その名が示す通り、イタリア・ピエモンテ州の州都トリノ(Torino)にゆかりを持つ協同組合系の蔵元(カンティーナ・ソチアーレ)とされる。戦後のイタリア・ピエモンテにおいて、ランゲ地方に点在する小規模な葡萄栽培農家が独自の醸造設備を持つことが困難であった時代、こうした協同組合(クーペラティーヴァ、cooperativa)は地域のワイン産業を支える基幹的役割を果たしてきた。組合員農家が栽培した葡萄を共同醸造所に持ち寄り、共同で発酵・熟成・瓶詰めを行い、組合名義のラベルで市場へ送り出すという仕組みは、20世紀後半のバローロを国際市場に押し出す原動力のひとつとなった。本キュヴェ「バローロ・リゼルヴァ」は、組合員農家がバローロDOC生産地区内に有する優良区画の葡萄を選別して仕込まれ、規定の最低5年(うち4年は木樽)を超える長期熟成を経て出荷された伝統的協同組合バローロの一例とされる。
ピエモンテにおける協同組合運動の代表例としては、カスティリオーネ・ファッレットを本拠とするテッレ・デル・バローロ(Terre del Barolo、1958年設立)、バルバレスコ村のプロドゥットーリ・デル・バルバレスコ(Produttori del Barbaresco、1958年現体制で再設立)などが知られ、いずれも組合員農家の優れた区画の葡萄を集めて高水準のネッビオーロを生産することで、独立した小生産者と並ぶ評価を獲得してきた。クーペラティーヴァ・トリネーゼも、こうした戦後ピエモンテの協同組合運動の一翼を担った蔵元のひとつと位置づけられ、本ヴィンテージはまさにバローロDOC制定の歴史的瞬間にあたる。
バローロ(Barolo)は、ピエモンテ州クネオ県、アルバの南に広がるランゲ地方の丘陵地に位置するイタリア最高峰の赤ワイン産地である。「ワインの王にして王のワイン(il re dei vini, il vino dei re)」と讃えられ、サヴォイア王家からも愛飲されてきた由緒を持つ。現在はDOCG(保証付き原産地呼称、1980年制定)に格上げされているが、本ヴィンテージ1966年はDOC制定の年であり、本品はバローロDOCの最初期世代のリゼルヴァである。生産地区はバローロ(Barolo)、カスティリオーネ・ファッレット(Castiglione Falletto)、モンフォルテ・ダルバ(Monforte d'Alba)、セッラルンガ・ダルバ(Serralunga d'Alba)、ラ・モッラ(La Morra)の5主要村と周辺村を合わせた11コムーネで構成され、畑面積はおおむね2,200ヘクタールに及ぶ。標高200~500メートルのランゲ丘陵に広がり、ラ・モッラ・バローロ寄りのトルトニアン階の青灰色マールは芳香と優美さを、セッラルンガ・モンフォルテ寄りのヘルヴェティアン階の砂質マールは骨格と長期熟成能力を、それぞれネッビオーロに与える。同地区を代表する伝統派の造り手には、バルトロ・マスカレッロ(Bartolo Mascarello)、ジャコモ・コンテルノ(Giacomo Conterno)、ジュゼッペ・マスカレッロ、ブルーノ・ジャコーザ(Bruno Giacosa)、ピオ・チェーザレ(Pio Cesare)、ボルゴーニョ(Borgogno)、フォンタナフレッダ(Fontanafredda)、ヴィエッティ(Vietti)などが知られる。
本キュヴェの品種はネッビオーロ(Nebbiolo)100%。「霧(nebbia)」を語源とするこの晩熟品種は、収穫期にランゲの丘を覆う秋霧の中で完熟し、独特の薔薇と杉、タール、サワーチェリーの香りを獲得する。バローロの伝統的造りは、長期マセラシオン(果皮浸漬を3~4週間、時に1ヶ月以上)とスロヴォニア産オークの大樽(ボッテ)による長期熟成を組み合わせる古典手法を基本とする。本ヴィンテージが造られた1966年は、まさに伝統派の手法が当然であった時代であり、近代派が小樽(バリック)と短期マセラシオンを導入する1980年代の革新以前の純粋な古典バローロの姿を伝える。リゼルヴァ規定による最低5年の蔵熟成を経て市場に送り出された本品は、ピエモンテ協同組合の真摯な造りとバローロDOC制定元年という歴史的瞬間を、半世紀以上の歳月を経て静かに伝える稀有な一本である。
味わいの特徴
ネッビオーロ100%。59年の熟成を経た現在、若い頃の薔薇、スミレ、サワーチェリー、ラズベリーといった華やかなアロマは深い三次アロマへと姿を変え、なめし革、タール、トリュフ、ドライポルチーニ、紅茶、湿った腐葉土、シナモン、ドライフラワー、甘草を思わせる複雑な香りが層をなして立ち上る。色調はネッビオーロ特有の煉瓦色を帯び、エッジには琥珀の縁取りが見える。タンニンは完全に丸みを帯び、絹のような滑らかな舌触りで口中を包み込む。ネッビオーロ本来の高い酸が背骨を通し、リゼルヴァ規定による長い樽熟成が生んだ穏やかな枯れた風味が余韻に静かに残る。ランゲの霧と王のワインの記憶が、六十年近い歳月を経て静かにグラスから立ち上ってくる。
1966年という時代
1966年、日本ではビートルズが来日し日本武道館で公演、戦後の若者文化を一変させる衝撃が走った。全日空羽田沖墜落事故、英国機富士山墜落事故と航空史に残る悲劇が続いた一方、日産サニーとトヨタ・カローラが相次いで発売されモータリゼーションが本格化、人口1億人を突破した年でもある。海の向こうではサッカーW杯イングランド大会で開催国が初優勝、中国では文化大革命が始まり世界の地政学が大きく揺れた。六十年近い熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への還暦祝いの誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるバローロDOC制定元年の歴史的古酒として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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