1966年 シャトー・ラ・ラギューヌ 赤ワイン















1966年のボルドーは、戦後屈指の偉大なヴィンテージ1961年に続く、1960年代を代表する古典的当たり年として広く評価されている。春は冷涼で開花は遅れたものの、夏は穏やかな好天が続き、9月から10月にかけての収穫期も天候に恵まれた。葡萄は健全に完熟し、酸とタンニンの骨格に恵まれた長期熟成型のワインが生まれた。メドックではカベルネ・ソーヴィニヨンの繊細な香りと堅牢な構造が際立ち、特に深い砂利層に守られた土壌では、半世紀以上の熟成を経た現在もなお生命力を失わない傑出した赤が生まれた。
シャトー・ラ・ラギューヌ
シャトー・ラ・ラギューヌ(Chateau La Lagune)は、ボルドー地方オー・メドック地区南端のリュドン・メドック(Ludon-Medoc)村に位置する、1855年メドック格付け第3級(Troisiemes Crus)の歴史ある名門である。ボルドー市街地から最も近い格付けシャトーとして知られ、シャトーから北上するD2号線「シャトー街道」の起点に立つ象徴的存在でもある。アペラシオンはマルゴーやサン・ジュリアンといった村名格ではなくオー・メドックACで、同地区の1855年格付けシャトーには、第4級のシャトー・ラ・トゥール・カルネ(La Tour Carnet)、第5級のシャトー・カントメルル(Cantemerle)、第5級のシャトー・ベルグラーヴ(Belgrave)、第5級のシャトー・ド・カマンサック(de Camensac)が並ぶ。周辺には他にも、シャトー・ラローズ・トラントドン(Larose-Trintaudon)、シャトー・ソシアンド・マレ(Sociando-Mallet)、シャトー・ラネッサン(Lanessan)、シャトー・モーカイユー(Maucaillou)といった優れたクリュ・ブルジョワが軒を連ねる。シャトーは18世紀に建てられたシャルトリューズ様式の優美な低層建築で、メドックを代表する美しいシャトー建築のひとつとして知られている。
オー・メドック地区は、ボルドー左岸ガロンヌ河とジロンド河に沿って北へ細長く延びる広大なアペラシオンで、メドック地方の最も優れた部分を覆う。1855年格付けに名を連ねる60余のシャトーのうち、マルゴー、サン・ジュリアン、ポーイヤック、サンテステフといった有名村名ACに属さないシャトーがオー・メドックACに区分される。土壌はガロンヌ河由来のギュンツ期砂利層を表層に持ち、その下に粘土と石灰岩が層をなす典型的なメドックのテロワールである。ラ・ラギューヌが立つリュドン・メドック村は、メドックの最南端に位置し、近隣の村よりも砂利層が薄く、暖かい微気候を持つ。
シャトー・ラ・ラギューヌの歴史は17世紀に遡り、18世紀には現在の優美なシャトー建築が完成した。20世紀半ばは経営難に陥り、第二次世界大戦後の1950年代には畑が荒廃して廃墟同然の状態にあった。1958年に企業家ジョルジュ・ブリュネ(Georges Brunet)が買収して全面的再生を開始し、1962年にはシャンパーニュの名門アヤラ家(Champagne Ayala)に売却された。本ヴィンテージ1966年当時は、まさにアヤラ家の運営下、伝説的女性醸造責任者ジャンヌ・ボワリー(Jeanne Boyrie)が現場を率いていた時代にあたる。彼女は1961年から1985年に他界するまで四半世紀にわたってラ・ラギューヌを率い、ボルドー格付けシャトーで女性が要職を担うことが稀であった時代に、第3級の地位を完全に取り戻した立役者として歴史に名を残している。2000年にはシャンパーニュ・ジャクソン(Champagne Jacquesson)を擁するフレ家(Frey)が買収し、現在は娘のキャロリーヌ・フレ(Caroline Frey)が運営を担い、ビオディナミ農法への移行など先進的な取り組みで知られている。
畑はおおむね80ヘクタールで、リュドン・メドックの平坦な砂利の高台に広がる。土壌はガロンヌ河由来の深いギュンツ期砂利層を表層に持ち、その下に粘土と鉄分を含む亜土壌が層をなす。メドックの中でも比較的暖かい微気候のため葡萄は早く完熟し、メルローの果実味が豊かに乗る。品種構成はカベルネ・ソーヴィニヨン約55~60%、メルロー約30~35%、プティ・ヴェルド約5~10%、わずかなカベルネ・フランで構成され、本ヴィンテージ当時もほぼ同様であった。セカンドワインの「モリン・ド・ラ・ラギューヌ(Moulin de la Lagune)」は20世紀後半に導入され、現在も健在である。
醸造はボワリー時代の伝統に従い、長期マセラシオン(果皮浸漬)と樽熟成を組み合わせる古典的手法を基本とし、樽熟成は18~24ヶ月、新樽比率はおおむね50%程度で運用されてきた。ジャンヌ・ボワリーのもとでラ・ラギューヌは「第3級の地位に相応しい品質」を完全に回復し、戦後ボルドーの復興物語のなかでも特に印象深いシャトーとして愛好家に親しまれてきた。本ヴィンテージ1966年は、ボワリー時代の黄金期にあたり、戦後屈指の当たり年と評される1966年のテロワール表現を半世紀以上の時を経て静かに伝える歴史的な一本である。
味わいの特徴
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロー、プティ・ヴェルド、カベルネ・フランのブレンド。59年の熟成を経た現在、若い頃のカシスやブラックチェリーの濃密な果実味は深い三次アロマへと姿を変え、シダー、なめし革、トリュフ、タバコの葉、紅茶、湿った腐葉土、ドライフラワーを思わせる複雑な香りが層をなして立ち上る。色調は深い煉瓦色を帯び、グラスのエッジには琥珀の縁取りが見える。タンニンは完全に丸みを帯び、絹のような舌触りで口中を滑らかに包み、骨格を失うことなく溶け込んでいる。リュドン・メドックの深い砂利層に由来する透徹したミネラルが背骨を通し、プティ・ヴェルドが加わった独特のスパイス感が長い余韻を支える。六十年近い歳月が静かに溶け出していく。
1966年という時代
1966年、日本ではビートルズが来日し日本武道館で公演、戦後の若者文化を一変させる衝撃が走った。全日空羽田沖墜落事故、英国機富士山墜落事故と航空史に残る悲劇が続いた一方、日産サニーとトヨタ・カローラが相次いで発売されモータリゼーションが本格化、人口1億人を突破した年でもある。海の向こうではサッカーW杯イングランド大会で開催国が初優勝、中国では文化大革命が始まり世界の地政学が大きく揺れた。六十年近い熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への還暦祝いの誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるオー・メドック第3級の古典として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
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