1972年 シャトー・ガザン 赤ワイン

Chateau Gazin
1972年 シャトー・ガザン|ポムロール ペトリュス隣接の名門
1972年ヴィンテージ
1972年のボルドーは、冷涼で日照不足の長い夏に悩まされた難しい年として記録されている。開花は遅れ、9月になっても葡萄の熟度が伸び悩み、収穫期は10月後半にずれ込んだ。メドックでは軽く線の細い赤が多かったが、ポムロールやサン・テミリオンの右岸ではメルロー主体の早熟な品種特性と、ポムロール特有の鉄分を含む粘土土壌が冷涼な気候に耐え、骨格を失わない赤が生まれた。半世紀以上の熟成を経た現在、評価の低かった年のワインも個性を獲得し、地味ながら誠実な味わいの輪郭を見せている。

シャトー・ガザン
シャトー・ガザン(Chateau Gazin)は、ボルドー右岸ポムロール地区の高台、ペトリュス(Petrus)とレヴァンジル(L'Evangile)に隣接する東部の中心的シャトーである。アペラシオンはポムロール・コントローレ。ポムロールには公式の格付け制度は存在しないが、ガザンは20世紀を通じて常にポムロールの上位陣に名を連ねてきた老舗のひとつである。畑面積はおおむね24ヘクタールで、ポムロールでは比較的大規模なシャトーに分類される。隣接または近接するシャトーには、ペトリュス、レヴァンジル、ラ・コンセイヤント(La Conseillante)、ヴュー・シャトー・セルタン(Vieux Chateau Certan)、トロタノワ(Trotanoy)といったポムロールを代表する名門が肩を並べる。

ポムロール地区はボルドー右岸ドルドーニュ河沿いに広がる小さなアペラシオンで、面積はおよそ800ヘクタールと、メドックの主要村と比べても遥かに小さい。土壌は中央の高台部分で粘土が厚く堆積し、その下には鉄分を多く含む地層「クラス・ド・フェル(crasse de fer)」が広がることで知られる。この鉄分を帯びた粘土土壌こそがポムロールのメルローに独特の濃厚さ、トリュフを思わせる芳香、鉄のニュアンスを与えると言われている。サン・テミリオンとは異なりポムロールには公式格付けがなく、序列は市場とジャーナリストの評価によって形作られてきた点も特徴である。

シャトー・ガザンの起源は中世にまで遡るとされ、12世紀には聖ヨハネ騎士団の保有する所領であったとの伝承が残る。近代になって1917年頃、現所有者であるバイヤンクール・ディ・クルコル家(Bailliencourt dit Courcol)が取得し、以来一世紀以上にわたって同家が一貫して所有・運営している。本ヴィンテージ1972年当時はエティエンヌ・ド・バイヤンクール(Etienne de Bailliencourt)が運営にあたっていたとされ、現在は息子のニコラ・ド・バイヤンクール(Nicolas de Bailliencourt)が当主を引き継いでいる。なお1969年から1970年にかけてガザンは隣接する畑のおよそ5ヘクタールをジャン・ピエール・ムエックス(Jean-Pierre Moueix)に売却し、これがペトリュスの拡張に組み入れられた。本ヴィンテージはまさにその売却直後の時代に造られた歴史的一本である。

畑はおよそ24ヘクタールで、ポムロールの中央高台の東端に広がる。土壌はおおむね粘土・砂利・砂が複雑に絡む構成で、特に高台部分は深い粘土層、緩斜面では砂利混じり、低地では砂質と、複数のテロワールを内包する。その下には鉄分を含む亜土壌「クラス・ド・フェル」が一部に分布し、メルロー本来の濃厚さと余韻に特徴的な鉱物的タッチを与える。品種構成はメルロー約90%、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランが少量という構成で、本ヴィンテージ当時もほぼ同様であったと推定される。セカンドワインとして「オスピタレ・ド・ガザン(Hospitalet de Gazin)」が後年導入されたが、本ヴィンテージ当時はグランヴァンに集約される時代であった。

醸造は伝統的な手法に基づき、ステンレスタンクとコンクリート槽による発酵の後、樽熟成はおおむね18ヶ月。新樽比率は時代により異なるが、近年はおおむね50%前後で運用されているとされる。1988年以降は設備の刷新と畑の見直しが進められ、ガザンは再び世界の右岸愛好家から熱い視線を浴びるようになったが、本ヴィンテージはそれ以前の素朴で重厚なガザンの姿を伝える一本である。

味わいの特徴
メルロー約90%にカベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンを少量加えたブレンド。53年の熟成を経た現在、若い頃のプラムやブラックチェリーの果実味は既に深い三次アロマへと変容し、トリュフ、湿った腐葉土、なめし革、紅茶、ドライフラワー、鉄を思わせる鉱物的なニュアンスが立ち上る。色調は深い煉瓦色から琥珀へと変化し、グラスのエッジにかすかな茜色が残る。タンニンは完全に丸みを帯び、絹のような舌触りで口中を包み込む。ポムロールの鉄分を含む粘土土壌に由来する濃密なミネラル感と、メルロー主体の柔らかな果実の名残が静かに調和し、余韻には半世紀の歳月が静かに溶け出していく。

1972年という時代
1972年、日本では札幌冬季五輪が開催され、ジャンプ70m級の日本選手による表彰台独占が国民を熱狂させた。沖縄が本土復帰を果たし、日中国交正常化が田中角栄首相と周恩来総理の間で調印され、戦後外交の大きな節目を刻んだ年でもある。海の向こうではミュンヘン五輪でのテロ事件、米中の歴史的接近(ニクソン訪中)など、東西冷戦下に時代の地殻変動を予感させる出来事が重なった。半世紀以上の熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるポムロール古酒の証言者として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
1972年 ボルドー地方 ポムロール地区 フランス
商品コード:7900535
¥96,800(税込)
¥88,000(税抜)
在庫: 1本
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