1972年 シャトー・モーカイユ 赤ワイン















1972年のボルドーは、冷涼で日照量に恵まれず、多くのシャトーが収穫量と品質の両面で苦戦したヴィンテージである。しかし丁寧な造りを心掛けた生産者のワインは、骨格が引き締まり、酸の生きた構造を保ちながら、半世紀を経た今、独特の落ち着きと深みを湛えている。ムーリ地区の砂利質土壌に育まれたブドウは、繊細でありながらも芯の強い性格をそのまま静かに熟成させた。
シャトー・モーカイユ
シャトー・モーカイユ(Chateau Maucaillou)は、ボルドー・オー・メドックのムーリ・アン・メドック村に位置する、クリュ・ブルジョワを代表する大規模シャトーである。「Maucaillou」とはガスコーニュ語で「悪い石」を意味し、これは農作物の栽培には不向きとされる痩せた砂利土壌、すなわちブドウ栽培にとっては逆に理想的とされる排水性の高い土地を指す。シャトーの名そのものが、メドック左岸の銘醸地に共通する「貧しい土こそが偉大なワインを生む」という哲学を体現しているといえる。ムーリ・アン・メドック地区は、ジロンド川沿いの主要なメドック銘醸地(マルゴー、ポイヤック、サン・ジュリアン、サン・テステフ)から内陸側に位置し、1855年格付けには含まれなかったため、長らく「メドックの隠れた銘醸地」と呼ばれてきた。しかし、その砂利と粘土・石灰岩の重層的なテロワールは、格付けシャトーに勝るとも劣らない品質のブドウを育む可能性を秘めており、シャトー・モーカイユをはじめ、シャトー・シャス・スプリーン、シャトー・プジョー、シャトー・ポワジャンといった造り手たちが、ムーリの名を世界に知らしめてきた。シャトーは1929年に、ボルドーで4代続くワイン商の家系であるドゥルト家(Dourthe)の中の一支流、テオドール・ドゥルト(Theodore Dourthe)によって取得された。それ以降、シャトー・モーカイユはネゴシアン業務とは独立した家族経営の単一シャトーとして、品質追求の道を歩み続けている。20世紀後半に入ると、フィリップ・ドゥルト(Philippe Dourthe)の代に大規模な品質改善と近代化が進められ、1966年には新たなシャトー(醸造所)が建設された。1979年には敷地内にメドックの葡萄栽培とワイン醸造の歴史を伝える「葡萄とワインの芸術と職人の博物館」(Musee des Arts et Metiers de la Vigne et du Vin)が開設されるなど、ムーリ地区を代表する造り手としての存在感を確立した。1972年当時はまさに同家の代を経た伝統的家族経営のもと、ヴィンテージの個性を素直に映す丁寧な造りが行われていた時代である。現在はテオドールの曾孫にあたる世代が経営を継承し、ドゥルト家による品質追求が続いている。畑は約79ヘクタールに及ぶ広大なもので、ムーリ地区の中核を成す砂利質テロワールに連続して広がる。表土を覆う厚い砂利層は優れた排水性と日中の熱保持力をブドウにもたらし、その下層の粘土・石灰岩質土壌が水分とミネラルの供給源となる、メドック左岸の理想的な土壌構成である。植栽の構成はカベルネ・ソーヴィニヨンが主体(約55パーセント前後)、メルロー(約35パーセント)、カベルネ・フラン(約5パーセント)、プティ・ヴェルド(約5パーセント)と、メドック左岸の伝統的なブレンド構成を堅実に守る。醸造はステンレスタンクとオーク樽を組み合わせた現代的な設備のもと、果皮浸漬と樽熟成(フレンチオーク樽16から18ヶ月)を経て生み出される。1932年に制定された旧クリュ・ブルジョワ格付けではクリュ・ブルジョワ・スペリュールに分類され、近年の格付け再編後もその位置を保ち続けている。生産量は年間相当数のケースに上り、クリュ・ブルジョワとしては大規模な部類に入るが、量と質の両立を地道に追求するドゥルト家の姿勢は変わることがない。
味わいの特徴
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルドによる古典的なメドックブレンド。54年の歳月を経た現在、若き日のタンニンは完全に絹のような質感へと到達し、果実味はドライプラム、黒スグリのリキュール、枯れた赤い花の風情へと昇華している。グラスからはなめし革、紅茶葉、湿った落ち葉、そしてかすかなトリュフを思わせる複雑な熟成香が立ちのぼる。酸はワインの骨格を静かに支え、余韻には砂利土壌特有のミネラル感と乾いた花の優美な気配が長く残る。
1972年という時代
1972年は昭和47年。日本では2月に札幌冬季オリンピックが開催され、5月に沖縄日本復帰、9月に日中国交正常化が果たされた、戦後史の節目となる出来事が連なる年であった。世界ではミュンヘン五輪、ニクソン米大統領の訪中など、東西の壁を越える動きが続いた時代である。54年の時を経たこの一本は、グラスの中にその時代の空気の重みを静かに伝えてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
彼にはじめての誕生日プレゼントだったのでずっと悩んでいたのですが、ワイン大好きな彼にピッタリだと思い生まれた年の1971年のワインを選びました。すごく感激してくれた彼。ワインにしてよかったです。
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