1970年 レ・フォール・ド・ラトゥール 赤ワイン















1970年のボルドーは、戦後の偉大なヴィンテージのひとつとして広く知られる古典的当たり年である。開花は順調で、夏は温暖、9月の収穫期には好天が続き、葡萄は健全に完熟した。収量は豊富でありながら品質も伴うという稀有な組み合わせが実現し、メドックでは堅牢な骨格と長期熟成のポテンシャルを備えたワインが多く生まれた。特にポーイヤック、サン・ジュリアン、サンテステフの三大村は当年を代表する産地となり、シャトー・ラトゥール(Latour)はこの1970年を歴史的傑作のひとつに数えるほどの成功を収めた。本キュヴェ「レ・フォール・ド・ラトゥール」も、グラン・ヴァンと共通の畑と造り手の手から生まれた当たり年の証言者である。
レ・フォール・ド・ラトゥールとシャトー・ラトゥール
レ・フォール・ド・ラトゥール(Les Forts de Latour)は、ボルドー1855年メドック格付け第1級(Premiers Crus)の名門シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)が手掛けるセカンドラベルである。1966年に初ヴィンテージが世に出され、ボルドー格付けシャトーにおいて「セカンドワイン」という概念を本格的に確立した先駆的存在として位置づけられている。本ヴィンテージ1970年は、レ・フォール・ド・ラトゥールがまだ誕生して間もない時期の作品で、その後ボルドー全土に広まる「セカンドワイン文化」の原点を形成する歴史的な一本である。「フォール(Forts、要塞)」の名は、シャトーの名前の由来にもなったジロンド河を望む中世以来の塔(ラ・トゥール、la tour)と、その周辺の防御施設の記憶を継ぐ。
シャトー・ラトゥールは、ボルドー地方オー・メドック地区ポーイヤック村の南端、サン・ジュリアン村との境界に位置する。シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・ラフィット・ロートシルトと並ぶポーイヤックの三大第1級のひとつで、メドック全体でも最も骨格と長期熟成能力に優れた赤を生むシャトーとして君臨してきた。畑の中心部、ジロンド河沿いの石垣で囲まれた約47ヘクタールの「ランクロ(L'Enclos)」がグラン・ヴァン「シャトー・ラトゥール」専用の畑となり、その外周に位置する「プチ・バタイエ(Petit Batailley)」「コンテス・ド・ラランド(Comtesse de Lalande)」「サルティス(Sartisses)」といった周辺区画の若樹から造られるのが、本キュヴェ「レ・フォール・ド・ラトゥール」である。畑面積はおおむね17ヘクタールで、ランクロと地続きのテロワールを共有しながら、若樹の華やかさと飲み頃の早さを身上とする。
ポーイヤック村は、オー・メドックのほぼ中央、サン・ジュリアンとサンテステフの間に位置するメドックの心臓部である。1855年格付けの第1級5シャトーのうち3つ(ラトゥール、ラフィット・ロートシルト、ムートン・ロートシルト)がここに集中する稀有な村で、深い砂利層と完全な排水性に支えられたカベルネ・ソーヴィニヨンが世界最高峰の骨格と長期熟成能力を発揮する。同村には他にも、シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン(Pichon-Baron、第2級)、シャトー・ピション・ラランド(Pichon-Lalande、第2級)、シャトー・ランシュ・バージュ(Lynch-Bages、第5級)、シャトー・ポンテ・カネ(Pontet-Canet、第5級)、シャトー・グラン・ピュイ・ラコスト(Grand-Puy-Lacoste、第5級)、シャトー・バタイエ(Batailley、第5級)、シャトー・ダルマイヤック(d'Armailhac、第5級)、シャトー・クレール・ミロン(Clerc-Milon、第5級)など、格付けシャトーが密集している。
シャトー・ラトゥールの歴史は14世紀に遡る古城に始まり、17世紀以降ボルドーの貴族たちの手に渡って近代的ワイン産業の礎を築いた。1963年にはピアソン家を中心とする英国コングロマリットがコルディエ家から株式を取得し、英国資本下で近代化を進めた。本ヴィンテージ1970年当時は、ピアソン・グループ(Pearson Group)の所有下、アンリ・マルタン(Henri Martin)とジャン・ポール・ガルデール(Jean-Paul Gardere)の二人が共同で運営にあたり、ラトゥールに近代醸造技術と厳格な選別を導入していた黄金期にあたる。彼らこそが1966年のレ・フォール・ド・ラトゥール創設の立役者である。その後1989年にアライド・ライオンズが経営を引き継ぎ、1993年からはフランスの実業家フランソワ・ピノー(Francois Pinault)の所有下にあって現在に至っている。
畑はランクロの外周の若樹区画を中心におおむね17ヘクタール。土壌はジロンド河沿いのギュンツ期砂利層が深く堆積した典型的なポーイヤックのテロワールで、排水性が極めて高く、葡萄樹を地中深く根を張らせてミネラルと骨格を獲得する。品種構成はおおむねカベルネ・ソーヴィニヨン65~75%、メルロー20~30%、カベルネ・フランとプティ・ヴェルドが少量という構成で、本ヴィンテージ当時もほぼ同様であったと推定される。醸造はシャトー・ラトゥールと同じ醸造所、同じスタッフ、同じ哲学のもとで行われ、樽熟成は18ヶ月前後、新樽比率は時代により異なるがおおむね50%程度。セカンドラベルとはいえ、他のシャトーのグラン・ヴァンを凌ぐ品質と長期熟成能力を誇り、メドックの「スーパー・セカンド」と呼ぶに相応しい一本である。
味わいの特徴
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドをブレンド。55年の熟成を経た現在、若い頃のカシスやブラックベリーの濃密な果実味は深い三次アロマへと姿を変え、シダー、なめし革、トリュフ、タバコの葉、紅茶、湿った腐葉土、ドライフラワーを思わせる複雑な香りが層をなして立ち上る。色調は深い煉瓦色を帯び、グラスのエッジには琥珀の縁取りが見える。タンニンは完全に溶け込み、絹のような舌触りで口中を滑らかに包み込みながらも、ポーイヤック由来の骨格は失われていない。ランクロ周辺の深い砂利層に由来する透徹したミネラルが背骨を通し、長く伸びる余韻に半世紀以上の歳月が静かに溶け出していく。
1970年という時代
1970年、日本では大阪万博(日本万国博覧会)が開催され、77ヶ国が参加した戦後復興の象徴的祭典として6,400万人を超える来場者で賑わった。三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げ、戦後文学史に衝撃を与えた年でもある。海の向こうではビートルズが解散を発表し、アポロ13号が事故からの奇跡の生還を果たすなど、時代の節目を象徴する出来事が重なった。半世紀以上の熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるポーイヤックの第1級シャトーの分身として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
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