1967年 シャトー・レヴァンジル 赤ワイン















1967年のボルドーは、左岸メドックと右岸ポムロール・サン・テミリオンで作柄が大きく分かれた年として記録されている。メドックは収穫期の雨に悩まされたものの、メルロー主体の右岸では9月の好天に救われ、ポムロールでは特に成熟した葡萄が得られた。ポムロール特有の鉄分を含む粘土土壌は冷涼・湿潤な条件下でも品質を保ち、繊細さと骨格を併せ持つ赤を生んだ。半世紀以上の熟成を経た現在、右岸の1967年は当たり年に劣らぬ気品を獲得し、ポムロール古酒の魅力を静かに語りかけている。
シャトー・レヴァンジル
シャトー・レヴァンジル(Chateau L'Evangile)は、ボルドー右岸ポムロール地区の南東端、ペトリュス(Petrus)と道一本を隔ててサン・テミリオン地区のシャトー・シュヴァル・ブラン(Cheval Blanc)に挟まれた、ポムロールでも特に恵まれた位置に立つシャトーである。アペラシオンはポムロール・コントローレ。ポムロールには公式の格付け制度こそ存在しないが、レヴァンジルは20世紀を通じてペトリュス、ル・パン(Le Pin)、シャトー・ラフルール(Lafleur)と並ぶポムロールの最上位陣に常に名を連ねてきた名門である。近隣にはペトリュス、ラフルール、ル・パン、ヴュー・シャトー・セルタン(Vieux Chateau Certan)、ラ・コンセイヤント(La Conseillante)、シャトー・トロタノワ(Trotanoy)、シャトー・ラ・フルール・ペトリュス(La Fleur-Petrus)、シャトー・オサナ(Hosanna)など、ポムロールを代表する名門が肩を並べる。
ポムロール地区はボルドー右岸ドルドーニュ河沿いに広がる小さなアペラシオンで、面積はおよそ800ヘクタールと、メドックの主要村と比べても遥かに小さい。土壌は中央の高台部分で粘土が厚く堆積し、その下には鉄分を多く含む地層「クラス・ド・フェル(crasse de fer)」が広がる。この鉄分を帯びた粘土土壌こそがポムロールのメルローに独特の濃厚さ、トリュフを思わせる芳香、鉱物的なニュアンスを与えるとされる。レヴァンジルの畑はポムロール台地の南端にあたり、土壌構成はペトリュスとシュヴァル・ブランの中間的性格を持つとされ、メルローの厚みとカベルネ・フランの繊細さの両方を引き出す稀有なテロワールである。
シャトー・レヴァンジルの起源は18世紀半ばに遡るとされ、当時の名「ファゼ・ベルガード(Fazilleau-Bergat)」から19世紀初頭に「ドメーヌ・ド・レヴァンジル」へと改名された。1862年にイザンブール家からポール・シャペル(Paul Chaperon)に売却され、その後縁戚関係を通じてデュカス家(Ducasse)の手に移った。本ヴィンテージ1967年当時は、ルイ・デュカス(Louis Ducasse)の運営下にあり、デュカス家による伝統的造りが結実した時代である。ルイは1982年に他界し、その後は妻のマドレーヌ・デュカス(Madeleine Ducasse)が娘たちとともにシャトーを支えた。1990年にラフィット・ロートシルトを擁するドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト(Domaines Barons de Rothschild、DBR Lafite)が株式の過半数を取得、1999年に完全所有とし、以後はラフィットの哲学のもとで全面的再生が進んだ。本ヴィンテージは、ロートシルト時代以前、デュカス家による古典的レヴァンジルの素朴で誠実な姿を伝える歴史的な一本である。
畑はおおむね22ヘクタール(本ヴィンテージ当時はおよそ14ヘクタール前後と推定される)。ポムロール台地の南端、シュヴァル・ブランとの境界沿いに広がる細長い区画で、表層は砂利混じりの粘土、その下に鉄分を含む粘土の亜土壌が控える。ポムロールの中でも砂利の比率がやや高く、メルローの果実の厚みにカベルネ・フラン特有の細やかな香りと骨格が加わる、ペトリュスの圧倒的重厚さとは異なる繊細優美なスタイルを生む土地である。品種構成はメルロー約78%、カベルネ・フラン約22%。本ヴィンテージ当時もほぼ同様の構成であった。セカンドワイン「ブラゾン・ド・レヴァンジル(Blason de l'Evangile)」は1999年から導入されたが、本ヴィンテージ当時はグランヴァンに集約される時代であった。
デュカス家時代のレヴァンジルは、伝統的なポムロールの手法に従い、コンクリート・タンクと木製発酵槽による発酵、樽熟成はおおむね18ヶ月、新樽比率は控えめという素朴な造りが基本であった。ロートシルト時代以降は新樽比率を引き上げ、選別を徹底し、最新の設備を導入することでスタイルは大きく洗練されたが、本ヴィンテージはそれ以前の純粋に古典的なレヴァンジルの姿を、半世紀以上の時を経て静かに伝える。ペトリュスの陰に隠れがちながら、ポムロールの真の至宝のひとつとして愛好家に愛されてきた本シャトーの、変遷の前夜を映し取る貴重な一本である。
味わいの特徴
メルロー約78%、カベルネ・フラン約22%。58年の熟成を経た現在、若い頃のプラムやブラックチェリーの果実味は深い三次アロマへと変容し、トリュフ、湿った腐葉土、なめし革、紅茶、ドライフラワー、シダー、軽い香草と煙、そして鉄を思わせる鉱物的なニュアンスが層をなして立ち上る。色調は深い煉瓦色から琥珀へと変化し、グラスのエッジにかすかな茜色が残る。タンニンは完全に丸みを帯び、絹のような舌触りで口中を滑らかに包み込む。ポムロールの鉄分を含む粘土土壌に由来する濃密なミネラル感と、メルロー主体の柔らかな果実の名残、カベルネ・フランがもたらす細やかな骨格と香りが静かに調和する。余韻には半世紀以上の歳月が静かに溶け出し、ペトリュスでも、シュヴァル・ブランでもない、レヴァンジル独自の優美な物語を語る。
1967年という時代
1967年、日本では公害対策基本法が制定され、高度経済成長の歪みに国が初めて正面から向き合った年として記憶される。ツイギーの来日でミニスカートブームが起こり、グループサウンズが若者文化を席巻、漫画『あしたのジョー』の連載が始まった。海の向こうではビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を発表し、ポピュラー音楽の概念を一変させた。中東では第3次中東戦争(六日戦争)が勃発、南アフリカでは世界初の心臓移植手術が成功するなど、時代の節目を象徴する出来事が重なった。半世紀以上の熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるポムロール古酒の至宝として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
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