1976年 シャトー・レオヴィル・ラスカーズ 赤ワイン















1976年のボルドーは、20世紀屈指の猛暑・乾燥年として記録されている。春先からの高温と少雨は夏に頂点を迎え、葡萄は急速に成熟し糖度は十分に上がったものの、酸はやや低めとなった。メドックの赤は凝縮感とタンニンの強さが際立ち、当初は固く閉じていたものが長い熟成を経て真価を現すタイプの年と評された。サン・ジュリアン村のように深い砂利層に守られた土壌では、暑さの影響が緩和され、骨格と気品を備えた長期熟成型の赤が生まれた。
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ(Chateau Leoville Las Cases)は、ボルドー地方オー・メドック地区サン・ジュリアン村の最北端、ポーイヤック村のシャトー・ラトゥール(Latour)と石垣ひとつ隔てて隣り合う場所に位置する名門である。1855年メドック格付けでは第2級(Deuxiemes Crus)に列せられ、サン・ジュリアンを代表する三つのレオヴィル(ラス・カーズ、ポワフェレ、バルトン)の筆頭格として知られる。その品質はしばしば第1級に迫ると評され、メドック格付け第2級の中でも「スーパー・セカンド」と呼ばれる最高峰のひとつに位置づけられている。正式名称は「グラン・ヴァン・ド・レオヴィル・デュ・マルキ・ド・ラス・カーズ(Grand Vin de Leoville du Marquis de Las Cases)」で、ラベルには石垣に囲まれたグラン・クロを守る獅子の紋章が描かれている。
サン・ジュリアン村は、オー・メドックのほぼ中央に位置する小さな村で、北のポーイヤック、南のマルゴーと並びメドックの最重要村のひとつに数えられる。村の畑面積は900ヘクタールほどでありながら、その大部分が格付けシャトーで占められるという高い密度を誇る。同村にはレオヴィル・ラス・カーズと並ぶ第2級のシャトー・レオヴィル・ポワフェレ(Leoville Poyferre)、シャトー・レオヴィル・バルトン(Leoville Barton)、シャトー・デュクリュ・ボーカイユー(Ducru-Beaucaillou)、シャトー・グリュオー・ラローズ(Gruaud-Larose)、第3級のシャトー・ラグランジュ(Lagrange)、シャトー・ランゴア・バルトン(Langoa-Barton)、第4級のシャトー・ベイシュヴェル(Beychevelle)、シャトー・ブラネール・デュクリュ(Branaire-Ducru)、シャトー・タルボ(Talbot)、シャトー・サン・ピエール(Saint-Pierre)などが軒を連ねる。
レオヴィル家の起源は17世紀末に遡り、当時はメドック最大級の単一所領「グラン・レオヴィル」として知られた。フランス革命と19世紀の相続を経て1840年頃に三分割され、ラス・カーズ、ポワフェレ、バルトンの三つのシャトーが生まれた。ラス・カーズの所有はラス・カーズ侯爵家からデュロ家、そして19世紀末から20世紀初頭にかけてポーランド系のスカヴィンスキ家(Skawinski)の経営協力を経て、20世紀を通じてはドロン家(Delon)が筆頭株主・運営者として一貫して同シャトーを率いてきた。本ヴィンテージ1976年当時は、伝説的当主と評されるミシェル・ドロン(Michel Delon)が経営を担っており、彼の厳格な選別と長期熟成志向のスタイルがレオヴィル・ラス・カーズを「スーパー・セカンド」の地位へと押し上げていた時期にあたる。ミシェルは2000年に他界し、現在は息子のジャン・ユベール・ドロン(Jean-Hubert Delon)が運営を引き継いでいる。
畑面積はおおむね97ヘクタールで、その中心部に石垣で囲まれた約55ヘクタールの「グラン・クロ(Grand Enclos)」がある。このグラン・クロこそがグラン・ヴァンに供される最上の区画で、ジロンド河沿いの深い砂利層と粘土・石灰岩の亜土壌に支えられ、隣のシャトー・ラトゥールと同質のテロワールを共有していると評される。品種構成はカベルネ・ソーヴィニヨン約65~75%、メルロー約17~20%、カベルネ・フラン約13%、わずかにプティ・ヴェルドを加えた構成。本ヴィンテージ当時もカベルネ・ソーヴィニヨンを骨格とする古典的構成であったと推定される。セカンドワインの「クロ・デュ・マルキ(Clos du Marquis)」は1904年から続く独立したラベルとして知られている。
醸造は伝統的な長期マセラシオン(果皮浸漬)と樽熟成を組み合わせる古典的手法を基本とし、樽熟成は18~24ヶ月、新樽比率はおおむね50~80%で運用されてきた。ミシェル・ドロン時代のラス・カーズは厳格な選別と古典的造りで知られ、若い時期は固く閉じ、長い熟成を経て真価を現すスタイルを徹底した。本ヴィンテージ1976年は、ミシェル・ドロンの黄金期に造られた長期熟成型サン・ジュリアンの典型として、半世紀の時を経た今こそ真価を発揮する一本である。
味わいの特徴
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロー、カベルネ・フラン、わずかなプティ・ヴェルドをブレンド。49年の熟成を経た現在、若い頃のカシスやブラックベリーの濃密な果実味は深い三次アロマへと姿を変え、シダー、なめし革、トリュフ、タバコの葉、紅茶、湿った腐葉土を思わせる複雑な香りが層をなして立ち上る。色調は深い煉瓦色を帯び、グラスのエッジには琥珀の縁取りが見える。タンニンはすっかり丸みを帯び、絹のような舌触りで口中を滑らかに包み、骨格を失うことなく溶け込んでいる。ジロンド河沿いの深い砂利層に由来する透徹したミネラルが背骨を通し、長く伸びる余韻に半世紀の歳月が静かに溶け出していく。
1976年という時代
1976年、日本ではロッキード事件が発覚し田中角栄前首相が逮捕、戦後政治の大きな転換点となった。プロ野球では王貞治がハンク・アーロンを抜く本塁打世界記録に向け快進撃を続け、国民の関心を集めた年でもある。海の向こうではアメリカ建国200年、毛沢東の逝去と中国文化大革命の終焉、英仏共同開発のコンコルドの商業運航開始など、時代の節目が重なった。半世紀の熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるメドック格付け第2級の至宝として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
彼にはじめての誕生日プレゼントだったのでずっと悩んでいたのですが、ワイン大好きな彼にピッタリだと思い生まれた年の1971年のワインを選びました。すごく感激してくれた彼。ワインにしてよかったです。
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