1976年 シャトー・ラ・フルール・ペトリュス 赤ワイン















1976年のボルドーは、20世紀屈指の猛暑・乾燥年として記録されている。春先からの異常な高温と少雨は夏に頂点を迎え、葡萄は急速に成熟し糖度は十分に上がったものの、酸はやや低めとなった。メドックでは凝縮感とタンニンの強さで知られる長期熟成型の年と評されたが、特にメルロー主体の右岸ポムロールでは、鉄分を含む粘土土壌が水分を保ち、極端な過熟を避けた緻密で香り高い赤が生まれた。半世紀の時を経た現在、当時は飲み頃が早いと予想された右岸の1976年もなお生命力を保ち、当たり年に劣らぬ気品を湛えている。
シャトー・ラ・フルール・ペトリュス
シャトー・ラ・フルール・ペトリュス(Chateau La Fleur-Petrus)は、ボルドー右岸ポムロール地区の中央高台、ペトリュス(Petrus)とシャトー・ラフルール(Chateau Lafleur)の間に位置するシャトーで、その名は両隣の至宝を継ぐ位置取りから生まれた。アペラシオンはポムロール・コントローレ。ポムロールには公式の格付け制度こそ存在しないが、ラ・フルール・ペトリュスは20世紀を通じて常に同地区の上位陣に名を連ね、ペトリュス、トロタノワ(Trotanoy)と並ぶムエックス家の旗艦のひとつとして世界の愛好家から親しまれてきた。近隣にはペトリュス、ラフルール、ル・パン(Le Pin)、ヴュー・シャトー・セルタン(Vieux Chateau Certan)、ラ・コンセイヤント(La Conseillante)、レヴァンジル(L'Evangile)、トロタノワなど、ポムロールを代表する名門が肩を並べる。
ポムロール地区はボルドー右岸ドルドーニュ河沿いに広がる小さなアペラシオンで、面積はおよそ800ヘクタールと、メドックの主要村と比べても遥かに小さい。土壌は中央の高台部分で粘土が厚く堆積し、その下には鉄分を多く含む地層「クラス・ド・フェル(crasse de fer)」が広がる。ラ・フルール・ペトリュスはペトリュスのような純粋な青粘土の塊ではなく、砂利と粘土が混ざる土壌に立つため、ペトリュスの圧倒的な重厚さに対し、より優雅で香り高いスタイルを生み出すと評されている。サン・テミリオンとは異なりポムロールには公式格付けがなく、序列は市場とジャーナリストの評価によって形作られてきた点も特徴である。
シャトーの歴史は19世紀に遡るが、現代の名声を築いたのは1953年にネゴシアン、ジャン・ピエール・ムエックス(Jean-Pierre Moueix)が取得して以降のことである。ムエックス家は1937年にコレーズ出身のジャン・ピエール・ムエックスがリブルヌに設立したネゴシアンを起源とし、20世紀後半を通じてペトリュス、トロタノワ、マグドレーヌ、ベレールといった右岸の名門を次々と保有または運営に組み入れ、右岸最大の影響力を持つに至った。本ヴィンテージ1976年当時は、創業者ジャン・ピエール・ムエックスの存命下、長男クリスチャン・ムエックス(Christian Moueix)が経営に深く関わり始めた時期にあたる。ジャン・ピエール・ムエックスは2003年に没し、現在はクリスチャンの息子エドゥアール・ムエックス(Edouard Moueix)が次世代を担う。
畑面積は本ヴィンテージ当時およそ9~10ヘクタール(その後の2013年前後の畑交換と再編により現在はおよそ18ヘクタールに拡張されたとされる)。ポムロール中央の高台に広がり、表層は砂利混じりの粘土、亜土壌には鉄分を含む粘土が控える複雑な構成である。ペトリュスの純粋な青粘土と比べると砂利の比率が高く、これがラ・フルール・ペトリュスにより軽やかで香り高い表情を与えるとされる。品種構成はメルロー約90%、カベルネ・フラン約10%。本ヴィンテージ当時もほぼ同様の構成であったと推定される。
醸造はムエックス家の伝統に従い、低温による穏やかな発酵、長すぎないマセラシオン、そして樽熟成は18ヶ月前後、新樽比率はおおむね50%程度で運用されてきた。ムエックス・スタイルはエレガンスとフィネスを重んじる方針で知られ、過剰な抽出を避け、土壌の繊細さを率直に映し取ることを優先する。本ヴィンテージは、ジャン・ピエール・ムエックス家がポムロールに君臨し始めた黄金期の作品であり、ペトリュスの圧倒的存在感に隠れがちな繊細な至宝の姿を、半世紀の時を経て静かに伝える一本である。
味わいの特徴
メルロー約90%にカベルネ・フラン約10%のブレンド。49年の熟成を経た現在、若い頃のプラムやブラックチェリーの果実味は既に深い三次アロマへと変容し、トリュフ、湿った腐葉土、なめし革、紅茶、ドライフラワー、鉄を思わせる鉱物的なニュアンスが層をなして立ち上る。色調は深い煉瓦色を帯び、グラスのエッジには琥珀の縁取りが見える。タンニンは完全に溶け込み、絹のように滑らかな舌触りで口中を包み込む。ペトリュスのような圧倒的重厚さではなく、ポムロールの中でも特に上品で香り高い表情を見せ、長い余韻には半世紀の歳月が静かに溶け出していく。
1976年という時代
1976年、日本ではロッキード事件が発覚し田中角栄前首相が逮捕、戦後政治の大きな転換点となった。プロ野球では王貞治がハンク・アーロンを抜く本塁打世界記録に向け快進撃を続け、国民の関心を集めた年でもある。海の向こうではアメリカ建国200年、毛沢東の逝去と中国文化大革命の終焉、コンコルドの商業運航開始など、時代の節目が重なった。半世紀の熟成を経たこの一本は、その年に生まれた方への誕生年ワインとして、また人生の節目に開けるポムロール古酒の名品として、グラスの中に時代の空気ごと届けてくれる。
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父の退職祝いとして、父の入社年のワインを送りました。思い入れのある記念のプレゼントとして利用する方が多いと思いますが、こちらの想いにきちんと応えて下さっていると思います。
彼にはじめての誕生日プレゼントだったのでずっと悩んでいたのですが、ワイン大好きな彼にピッタリだと思い生まれた年の1971年のワインを選びました。すごく感激してくれた彼。ワインにしてよかったです。
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