2016年 DRC ラ・ターシュ (ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ) 赤ワイン

























2016年のブルゴーニュは、早い萌芽の後に記録的な春の長雨に見舞われ、4月下旬の激しい霜が若い新梢を襲った試練の年でした。DRCでもエシェゾーなど一部の畑は新梢の大半を失ったと伝えられます。しかし7月中旬からは好天が続き、残された房は理想的な糖度とフェノールの熟度へ到達しました。当時の当主オベール・ド・ヴィレーヌ氏はこの劇的な好転を、ナポレオンがマレンゴで劣勢を覆した逆転勝利になぞらえ、近年で最も完成度の高いヴィンテージの一つと位置づけています。ラ・ターシュは9月24~25日に収穫され、収量は特級の上限42hL/haを大きく下回る20~30hL/ha、生産量は約21,770本とされます。少量ゆえの凝縮と、遅い収穫がもたらした熟度を兼ね備えた年です。
DRC ラ・ターシュ (ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)
ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(Domaine de la Roman?e-Conti、通称DRC)は、ブルゴーニュ地方コート・ド・ニュイ、ヴォーヌ・ロマネ村に本拠を置く、ブルゴーニュの頂点に立つ生産者です。ラ・ターシュ(La T?che)は同村のグラン・クリュ(特級)畑であり、DRCが単独で所有するモノポールとして、ロマネ・コンティと双璧をなす存在です。畑のすぐ北には同村の特級「ラ・グランド・リュ」が隣接し、村内にはドメーヌ・ルロワ、メオ・カミュゼ、コント・リジェ・ベレール、シルヴァン・カティアールといった名手が軒を連ねます。
ヴォーヌ・ロマネの斜面は石灰岩を基盤とし、その上に赤色粘土や礫、大理石質の岩片、海生生物の石灰化石が標高によって異なる比率で分布しており、オベール・ド・ヴィレーヌ氏はこの複雑な構成について説明しています。北に位置するロマネ・コンティやリシュブールの気品に対し、南へ広がるこの区画は力強さと野性味を帯びた個性を育むと評されます。
ラ・ターシュの名は18世紀にジョゼフ・ジョリ・ド・ベヴィが所有した時代に遡り、その後リジェ・ベレール家が118年にわたって保有した後、1933年にDRCが取得しました。DRCそのものは1911年からド・ヴィレーヌ家が経営に関与し、1942年にアンリ・ルロワ氏が50%を出資して以来、ド・ヴィレーヌ家とルロワ家が半分ずつ株式を持つ共同経営体制が続いています。2016年当時はオベール・ド・ヴィレーヌ氏とアンリ=フレデリック・ロシュ氏が共同当主を務め、ロシュ氏の逝去を受けて2019年にルロワ家側からペリーヌ・フェナル氏が就任。2022年1月にはオベール氏が現場運営を退き、甥のベルトラン・ド・ヴィレーヌ氏とフェナル氏による新体制へ移行しました。新体制のもとでも発信は途切れず、2025年2月にはロンドンで2022年ヴィンテージが国際初披露され、2026年2月には収量減の2023年について摘果を品質維持の鍵とした栽培戦略が語られています。2026年3月にはDRC1945がニューヨークのオークションで81万2,500ドルで落札され、ワイン史上最高額を更新したことも、このドメーヌの地位を物語っています。
ラ・ターシュの畑面積は6.06ha。ピノ・ノワール100%で仕立てられ、年による生産量の振れ幅が大きいことでも知られます。霜害の2021年には7,000本に満たず、2022年には26,700本を超えたと報じられており、天候に対して収量を無理に補わない姿勢がうかがえます。DRCには厳密な意味でのセカンドワインはありませんが、ロマネ・コンティを除く複数の特級畑の遅摘みぶどうをブレンドした「キュヴェ・デュヴォー=ブロシェ」が1999年ヴィンテージから造られており、複数の特級を混醸するため規定上ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュとして格下げ表示されます。
栽培は1980年代に有機へ転換し、2000年代後半からビオディナミを全面採用したとされます。醸造では全房発酵を基本とし、熟成には自社で乾燥させたトロンセ産の新樽をほぼ100%用いるとされ、樽香がテロワールを覆い隠さない均衡が持ち味です。ラ・ターシュは1936年のAOC制定当初から特級に位置づけられ、その後隣接するレ・ゴーディショの一部を併合して現在の区画となったと伝えられます。年ごとの収穫量がどれほど揺れても、畑の声をそのまま瓶へ移すという姿勢は一貫しています。
味わいの特徴
ピノ・ノワール100%。若い頃のラ・ターシュ2016は、ブラックチェリーやカシスの凝縮した果実に、スミレやバラの華やかな花の香り、シナモンや丁子といった甘いスパイスが重なり、ビロードのようなタンニンと張りのある酸が長い余韻を支えていたと評されます。それから10年を経た現在は、果実がドライフルーツやプラムの深みを帯び、なめし革やトリュフ、枯葉、紅茶、湿った森の土といった熟成香が芽生え始めていることが期待されます。タンニンは角が取れて絹のように溶け込み、酸が全体に清涼な輪郭を与え、余韻には出汁のような旨味と甘やかなスパイスが長く続くことが期待されます。ロバート・パーカー98点、ジャンシス・ロビンソン19.5点などの評価を得た本ヴィンテージの飲み頃は2026年から2065年頃までと見込まれ、まさに扉が開き始めた段階といえます。抜栓は飲む1~2時間前、澱を避けて静かにデキャンタし、16~18℃で供するのが目安です。
2016年という時代
2016年、日本では4月に熊本地震が発生し、5月にはオバマ米大統領が現職として初めて広島を訪問しました。夏にはリオデジャネイロ五輪が開催され、映画『君の名は。』が記録的なヒットとなった年でもあります。世界では6月に英国がEU離脱を国民投票で選択し、11月の米大統領選ではドナルド・トランプ氏が勝利しました。この年に生まれた方は2026年に10歳という節目を迎えます。春の霜と長雨を耐え抜き、夏の陽光で見事に立ち直ったラ・ターシュ2016は、困難の先にある実りの記憶を、静かにグラスの中へ映し出します。
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