1968年のヴィンテージ作柄・出来・評価
概況
1968年の欧州におけるワインヴィンテージは、多くの主要ワイン産地にとって非常に困難な年であり、全般的に品質が低いと評価されています。特にフランスのボルドー地方の赤ワインは壊滅的な影響を受け、歴史上でも不作のヴィンテージとして記憶されています。ブルゴーニュやローヌといった他のフランスの地域でも、良好なワインは非常に限られました。しかし、イタリアやスペインの一部地域、そしてポルトガルのポートワインにおいては、比較的良好なワインが生産されており、地域による大きな差が見られたヴィンテージです。
フランス
ボルドー
1968年のボルドーは、赤ワインにとっては極めて悪いヴィンテージでした。生育期間を通じて悪天候に見舞われ、特に8月は記録的に雨が多く冷涼でした。夏はほとんど日照がなく、8月は20年ぶりの低温と降雨量となりました。この過剰な降雨によりブドウの成熟が妨げられ、収穫期を迎えるまでに健全なブドウを得ることが非常に困難でした。収穫は9月20日から始まりましたが、多くの畑で未熟な果実となり、収穫量は多いものの品質は低調でした。収穫されたブドウは未熟で希釈されており、結果として生産された赤ワインは非常にライトボディで、酸が目立ち、タンニンは硬く、果実味に欠けるものがほとんどでした。
左岸のメドック地区では、カベルネ・ソーヴィニヨンが特に苦戦しました。Pauillac、Saint-Julien、Margaux、Saint-Estephe、Gravesなどの主要村でも、多くのワインは品質が低く、長期熟成には全く向かないものでした。特に灰色かび病の影響が顕著でした。PauillacのChateau LatourやGravesのHaut-Brion、La Mission Haut-Brionは、この困難な年においても努力により比較的良いワインを生産したと評価されることもありますが、それはこのヴィンテージ全体の例外中の例外であり、現在でも良い状態を保っているボトルは極めて稀です。Chateau Mouton Rothschild(Pauillac)、Chateau Ducru-Beaucaillou(Saint-Julien)、Chateau Beychevelle(Saint-Julien)、Chateau Talbot(Saint-Julien)、Chateau Cos d'Estournel(Saint-Estephe)といった著名なシャトーからもワインはリリースされましたが、その品質は通常のものとは大きく異なります。Chateau Palmer(Margaux)は、この年のブドウを全て格下げしてシャトー名ではリリースしなかった数少ない主要シャトーの一つであり、ヴィンテージの厳しさを物語っています。
右岸のポムロールやサン・テミリオンでも状況は厳しく、メルロー主体で造られるワインも同様に品質が低迷しました。Chateau Petrus(Pomerol)やChateau Figeac(Saint-Emilion)、Chateau Cheval Blanc(Saint-Emilion)といった著名なシャトーでも、困難なヴィンテージであり、その真価を発揮するには至りませんでした。Chateau Vieux Chateau Certan(Pomerol)なども、この年の影響を受けました。
甘口ワインが造られるソーテルヌやバルサック地区も、全般的な悪天候の影響を受け、貴腐菌の良好な発生には繋がりませんでした。甘口ワインも例年に比べて品質は低い年となりました。しかし、一部ではまずまずの品質の甘口ワインが生産された可能性も示唆されています。モンバジャックといった他の甘口ワイン産地からも1968年ヴィンテージのワインが稀に見られます。
総じて、1968年のボルドー赤ワインは、歴史的に見ても非常に不作の年であり、現在良好な状態で存在しているボトルは皆無に等しいと言われています。ほとんどのワインは早期消費が推奨されました。
ブルゴーニュ
1968年のブルゴーニュも、ボルドーと同様に非常に困難なヴィンテージでした。春の遅霜、それに続く雹や病害(カビなど)の発生、そして夏から収穫期にかけての冷涼で湿った天候がブドウの生育に悪影響を及ぼしました。ブドウは十分に成熟せず、収穫量も少なくなりました。
赤ワインに関しては、薄く、酸が強く、未熟なタンニンを持つワインが多く生産されました。長期熟成のポテンシャルはほとんどなく、早飲みでも魅力に欠けるものが多かったとされています。コート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区ともに、この年の悪条件の影響を大きく受けました。
コート・ド・ニュイの主要村・畑には、Gevrey-Chambertin(Clos de Beze、Chambertin)、Vosne-Romanee(Romanee-Conti、La Tache、Richebourg)、Nuits-Saint-Georges(Les Saint-Georges、Les Vaucrains)、Chambolle-Musigny(Musigny、Bonnes Mares)、Morey-Saint-Denis(Clos de la Roche、Clos Saint-Denis)などが挙げられますが、このヴィンテージで優れたワインを見つけるのは極めて困難です。Domaine de la Romanee-Conti(Vosne-Romanee)のようなトップドメーヌでも、ヴィンテージの限界は明らかでした。
コート・ド・ボーヌの主要村・畑には、Volnay(Clos des Chenes、Santenots)、Pommard(Les Rugiens、Clos des Epeneaux)、Aloxe-Corton(Corton、Corton-Charlemagne)、Beaune(Clos des Mouches、Greves)、Savigny-les-Beaune(Les Lavieres)、Pernand-Verg
ローヌ
1968年のローヌ地方は、北部(エルミタージュ、コート・ロティ、コルナス、サン・ジョセフ)と南部(シャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス、ヴァケラス)の双方にとって、等しく非常に厳しいヴィンテージとなりました。生育期間を通じて続いた冷涼で湿度の高い天候は、シラー種やグルナッシュ種といった主要品種の成熟を深刻に妨げました。その結果、ワインは軽量で、凝縮感や品種特有のスパイス香に乏しく、ストラクチャーも弱く、熟成のポテンシャルもほとんど期待できないものばかりでした。北部ローヌのポール・ジャブレ・エネのエルミタージュ・ラ・シャペルや、南部ローヌのシャトー・ド・ボーカステルといったトップクラスの生産者でさえ、この年は通常からはほど遠い、品質の低いワインしか生産できなかったと記録されています。
ロワール
1968年のロワール地方もまた、フランスの他の多くの地域と同様に、長雨と深刻な日照不足という悪天候に苦しめられた年でした。ソーヴィニヨン・ブランを主体とするサンセールやプイィ・フュメでは、ブドウが十分に熟さず、ワインは非常に酸が強く、しばしば青臭さが感じられ、果実味に乏しいものとなりました。シュナン・ブランを用いるヴーヴレやモンルイなどのアペラシオンでも、辛口・甘口ともに成熟不足は明らかで、ワインはバランスが悪く、希薄で、長期熟成に耐えうるものはほぼ皆無でした。ミュスカデ地区のワインも酸が強く軽量で、カベルネ・フランを主体とするシノンやブルグイユなどの赤ワインも、色が薄く、軽く、個性に乏しいものが大半を占めました。
シャンパーニュ
1968年のシャンパーニュは、春の霜、冷涼で雨がちだった夏、そして収穫期の雨という悪条件が重なり、ブドウの成熟が著しく阻害された非常に困難なヴィンテージでした。収穫されたブドウは糖度が極めて低く、酸度が高いものが多く、健全な状態とは言えませんでした。そのため、ほとんどのシャンパン・メゾンがヴィンテージ・シャンパーニュの生産を見送りました。ノン・ヴィンテージのブレンドに使用されるベースワインでさえ品質が低く、生産量も限られたため、多くのメゾンにとって苦しい年となりました。
イタリア
ピエモンテ
1968年のピエモンテは、冷涼で雨の多い天候が支配的で、特に晩熟なネッビオーロ種にとっては成熟が非常に困難な年でした。バローロ、バルバレスコ、ガッティナーラといったネッビオーロを主体とする主要なDOCG(当時のDOC)では、ブドウが十分に熟さず、ワインは色が薄く、タンニンは未熟で粗く、収斂味が強く、果実味やストラクチャーに欠けるものが大半でした。結果として、長期熟成には全く向かない品質の低いワインが多く生産されました。バローロ村、ラ・モッラ村、カスティリオーネ・ファレット村、セッラルンガ・ダルバ村、モンフォルテ・ダルバ村といったバローロの主要コミューンや、バルバレスコのコミューンにおいても、高品質なワインはほとんど生産されませんでした。
トスカーナ
1968年のトスカーナもまた、サンジョヴェーゼ種を主体とするブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、キャンティ・クラシコ、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノといった主要な赤ワインにとって非常に厳しいヴィンテージとなりました。生育期間中の多雨と日照不足により、ブドウは十分に熟すことができず、ワインは軽量で、酸が強く、果実味が不足し、タンニンも未熟なものが多く、主に早飲み向き、あるいはそれ以下の品質でした。テヌータ・サン・グイドが手がけるサッシカイアは、この1968年が商業的にリリースされた最初のヴィンテージとして知られていますが、これは非常に困難な天候条件下で造られた初期の実験的なロットであり、後年のサッシカイアが示す偉大な品質や、この地域のポテンシャルを反映するものではありませんでした。ヴィンテージの一般的な品質は低いままでした。
ドイツ
1968年のドイツワインは、冷涼で雨の多い、極めて困難な天候条件に見舞われた年でした。モーゼル、ラインガウ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要なワイン産地では、特にリースリング種の成熟が著しく不十分でした。その結果、生産されたワインの多くは酸が非常に強く、糖度が低く、アルコール度数も低く、全体としてバランスに欠け、非常に軽いスタイルとなりました。一部の生産者が厳しい選果によってごく少量のカビネットやシュペートレーゼを生産した例もありますが、それらでさえ熟成力は乏しく、満足のいく品質には達しませんでした。貴腐菌の発生はほぼ皆無で、高品質なアウスレーゼ以上のクラスの甘口ワインの生産は絶望的でした。ベルンカステラー・ドクトール、ヴェーレナー・ゾンネンウーア、ヨハニスベルガー、フォルスター・イエズイテンガルテンといったドイツを代表するような著名な畑においても、この年のワインの品質は著しく低いものでした。
スペイン
リオハ
1968年のリオハは、不安定な天候と多雨により、テンプラニーリョを主体とするブドウの成熟が妨げられ、困難なヴィンテージとなりました。生産されたワインの多くは、色が薄く、軽量で、ストラクチャーや凝縮感に欠けていました。高品質なレセルバやグラン・レゼルバクラスのワインはほとんど生産されず、多くは早飲み向きのクリアンサ以下、あるいは格付けされないテーブルワインとして消費されました。一部の献身的な生産者が厳しい選果によってある程度の品質を保った可能性は否定できませんが、全体としては平均を大きく下回るヴィンテージと評価されています。
ポルトガル
ポート
1968年のポートワインは、主要なポートハウスによってヴィンテージ・ポートとして宣言されることはありませんでした。ドウロ渓谷は、生育期を通じて冷涼で雨の多い天候に見舞われ、ブドウの成熟が著しく妨げられました。その結果、ワインは凝縮感や力強さに欠け、タンニンの質も低く、長期熟成に必要な要素を備えていませんでした。シングル・キンタ・ヴィンテージポートやコルヘイタ・ポートといった他のカテゴリーのポートワインについても、この年の品質は限定的で、優れたものはほとんど見られませんでした。キンタ・ド・ノヴァル、キンタ・ド・ボンフィン(ダウ社)、キンタ・ダ・ロエダ(テイラー社)のような主要なキンタも、この年には高品質なワインをほとんど生産できませんでした。
アメリカ
カリフォルニア
1968年のカリフォルニアは、ヨーロッパの多くの産地が経験したような壊滅的な天候不順には見舞われなかったものの、全体としては平均的、あるいはやや涼しいヴィンテージとなりました。一部の地域では収穫期に雨が見られ、ブドウの成熟に影響を与えたケースもありました。ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティで生産されたカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネは、エレガントでバランスが良いものが造られましたが、突出した凝縮感や力強さを持つヴィンテージではありませんでした。一部の優れた生産者は良質なワインを造り出しましたが、ヴィンテージ全体としては控えめな評価を受けることが一般的です。
オーストラリア
1968年のオーストラリアは、バロッサ・ヴァレー、クナワラ、ハンター・ヴァレーといった主要なワイン産地において、シラーズ(シラー)やカベルネ・ソーヴィニヨンから概ね平均的な品質のワインが生産された年とされています。ヨーロッパのような深刻な天候不順に見舞われることはありませんでしたが、特筆すべき豊作であったり、傑出した高品質のワインが多く生まれたという記録は少なく、比較的標準的で平凡なヴィンテージであったと評価されています。