1962年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
ボルドー
1962年のボルドーは、20世紀の中でも特に優れたヴィンテージの一つとして高く評価されており、右岸・左岸ともに高品質で均整の取れたワインが多く生まれました。春は穏やかな気候でブドウの生育が順調に始まり、夏は暑く乾燥した理想的な天候が続きました。特に8月と9月は好天に恵まれ、日照時間が豊富で夜間は涼しく、ブドウはじっくりと完熟し、健全な状態で収穫されました。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローは共に素晴らしい出来栄えで、豊かな果実味、バランスの取れた酸、そしてきめ細かく成熟したタンニンを備え、エレガントでありながらしっかりとした骨格を持ち、長期熟成に適したクラシックなスタイルのワインが生産されました。メドックの主要アペラシオン、例えばポイヤック(シャトー・ラトゥール、シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・ラフィット・ロートシルト、シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン、シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランドなど)、サン・ジュリアン(シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ、シャトー・レオヴィル・バルトン、シャトー・レオヴィル・ポワフェレ、シャトー・グリュオー・ラローズなど)、マルゴー(シャトー・マルゴー、シャトー・パルメなど)、サンテステフ(シャトー・コス・デストゥルネル、シャトー・モンローズなど)では、しっかりとした骨格と洗練されたタンニン、そして深みのある味わいを持つワインが生まれました。グラーヴ地区でも、シャトー・オー・ブリオンやシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン、ドメーヌ・ド・シュヴァリエなどが、赤・白ともにバランスの取れた卓越した品質のワインを生み出しました。右岸のポムロール(シャトー・ペトリュス、シャトー・ラフルール、シャトー・トロタノワ、ヴュー・シャトー・セルタン、シャトー・ラ・コンセイヤントなど)とサンテミリオン(シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・オーゾンヌ、シャトー・フィジャック、シャトー・カノンなど)では、メルローがその魅力を最大限に発揮し、豊かな果実味としなやかで熟したタンニンを持つ、官能的で魅力的なワインが特徴となりました。ソーテルヌとバルサックの甘口貴腐ワインにとっても良好な年で、秋の好適な湿度と気温により貴腐菌(ボトリティス・シネレア)の発生が促され、シャトー・ディケム、シャトー・クリマン、シャトー・ラボー・プロミなどが、リッチで凝縮感がありながらも酸とのバランスに優れた、素晴らしい甘口ワインを生産しました。グラーヴの辛口白ワイン(シャトー・ラヴィル・オー・ブリオン、シャトー・オー・ブリオン・ブランなど)もまた、高い評価を受けました。
ブルゴーニュ
1962年のブルゴーニュは、赤ワイン・白ワインともに20世紀を代表する偉大なヴィンテージの一つとして輝かしい評価を得ています。ピノ・ノワールとシャルドネは共に、理想的な天候条件下で完璧に近い成熟を遂げました。春は穏やかで安定しており、夏は適度に暖かく乾燥し、そして何よりも9月が素晴らしく晴れ渡り、暖かく乾燥した日が続いたため、ブドウは健全な状態で糖度と風味を十分に蓄積し、最適なタイミングで収穫されました。コート・ド・ニュイでは、ヴォーヌ・ロマネ(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのラ・ターシュやリシュブール、グラン・エシェゾー、エシェゾーなど)、シャンボール・ミュジニー(ミュジニー、ボンヌ・マールなど)、ジュヴレ・シャンベルタン(クロ・ド・ベーズ、シャルム・シャンベルタンなど)、ニュイ・サン・ジョルジュ、クロ・ド・ヴージョといった綺羅星のごときアペラシオンで、エレガントでありながら力強く、深遠な複雑性と驚くべき長期熟成能力を備えた赤ワインが数多く生まれました。コート・ド・ボーヌでも、ポマール(特にレ・リュジアンやレ・ゼプノといったプルミエ・クリュ)、ヴォルネイ(クロ・デ・シェーヌやカイユレなどのプルミエ・クリュ)、ボーヌ、アロース・コルトン(コルトンのグラン・クリュ)などで、豊かな果実味とシルキーなタンニン、そしてテロワールの個性が際立つ素晴らしい赤ワインが生産されました。白ワインも同様に傑出しており、ムルソー(レ・ペリエールやシャルムなどのプルミエ・クリュ)、ピュリニー・モンラッシェ(モンラッシェ、バタール・モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェといったグラン・クリュ)、シャサーニュ・モンラッシェ、そしてコルトン・シャルルマーニュで、際立ったミネラル感、凝縮した果実味、そして熟成によって花開くナッツや蜂蜜のような複雑なブーケを持つ、偉大な白ワインが生まれました。シャブリもまた、ミネラルと酸の美しいバランスを示し、マコネやボジョレーといった南部ブルゴーニュでも、この年は通常よりも高品質なワインが生産されました。
ローヌ
1962年のローヌ地方は、北部・南部ともに優れたヴィンテージとなりました。理想的な天候条件に恵まれ、ブドウは健全に完熟しました。北部ローヌでは、エルミタージュ、コート・ロティ、コルナス、サン・ジョセフといったアペラシオンで、シラー種を主体とするワインが力強く、スパイシーで凝縮感があり、しっかりとしたタンニンと酸を備え、長期熟成に適した素晴らしい品質となりました。ポール・ジャブレ・エネのエルミタージュ・ラ・シャペルや、ギガルのコート・ロティ(特にラ・ムーリーヌの最初のヴィンテージがこの後数年で登場する前段階のクラシックなスタイル)などが代表的な例として高く評価されています。南部ローヌでも、シャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス、ヴァケラスなどで、グルナッシュを主体とするワインが豊満な果実味と複雑性を持ち、バランスの取れた仕上がりとなりました。シャトー・ド・ボーカステルやシャトー・ラヤスといったトップ生産者は、このヴィンテージでもその卓越した品質を証明するワインを生み出しました。
ロワール
1962年のロワール地方は、多様なワインスタイルにおいて全体的に高品質なヴィンテージとなりました。ソーヴィニヨン・ブランを主体とするサンセールやプイィ・フュメは、フレッシュでアロマティック、品種特有の生き生きとした果実味とミネラル感を備えたエレガントな白ワインとなりました。シュナン・ブランから造られるヴーヴレ、モンルイ、サヴニエールなどのアペラシオンでは、辛口から甘口まで幅広いスタイルのワインが成功を収めました。辛口はしっかりとした酸とミネラル感を持ち、長期熟成のポテンシャルを示しました。甘口、特に貴腐化したブドウを用いたモワルーやセレクション・ド・グラン・ノーブルは、凝縮した果実味、複雑な風味、そして素晴らしい酸とのバランスを持ち、長期熟成によってその真価を発揮するものが造られました。アンジュー・ソミュール地区のカベルネ・フランを主体とする赤ワインやロゼワインも、豊かな果実味とバランスの取れたストラクチャーを持ち、高品質でした。
シャンパーニュ
1962年のシャンパーニュは、優れたヴィンテージとして高く評価されています。生育期間中の天候は概ね良好で、特に暖かい夏と収穫期の好天が、ピノ・ノワールとシャルドネの健全な完熟を促しました。収穫されたブドウは糖度と酸度のバランスが非常に良く、豊かな風味を備えていました。その結果、エレガントでフィネスがあり、複雑性に富み、しっかりとした骨格と長期熟成能力を持つ高品質なヴィンテージ・シャンパーニュが多くの主要メゾンから生産されました。特にシャルドネ主体のブラン・ド・ブランや、ピノ・ノワールを主体とした力強いスタイルのシャンパーニュが高く評価される傾向にありました。
イタリア
ピエモンテ
1962年のピエモンテは、バローロとバルバレスコにとって傑出したヴィンテージの一つとされています。ネッビオーロ種は理想的な天候条件下で完璧に熟し、その結果生まれたワインは、力強いストラクチャー、豊かで複雑なアロマ、しっかりとしたタンニン、そして卓越した長期熟成能力を備えていました。バローロ村、ラ・モッラ村、カスティリオーネ・ファレット村、セッラルンガ・ダルバ村、モンフォルテ・ダルバ村といったバローロの主要コミューンや、バルバレスコ、トレイゾ、ネイヴェといったバルバレスコ地区の村々で、非常に高品質なワインが生産されました。ジャコモ・コンテルノ、ブルーノ・ジャコーザ、アルド・コンテルノといった、今日では伝説的な生産者たちが、この年に素晴らしいワインを世に送り出し、その評価を不動のものとしました。
トスカーナ
1962年のトスカーナは、サンジョヴェーゼ種を主体とする主要な赤ワインにとって優れたヴィンテージとなりました。キャンティ・クラシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノなどのアペラシオンで、ブドウは健全に完熟し、バランスが良く、エレガントで、熟成によって素晴らしい複雑さを増すワインが多く造られました。モンタルチーノでは、ビオンディ・サンティのような伝統的な生産者が、この年に非常に長命でクラシックなスタイルのブルネッロを生産し、高い評価を得ました。キャンティ地区でも、リッチで風味豊かな、熟成に適したワインが生まれました。
ドイツ
1962年のドイツワインは、リースリング種にとって特に良好なヴィンテージとなりました。モーゼル、ラインガウ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要なワイン産地で、ブドウは健全に熟し、豊かな果実味と生き生きとした酸の美しいバランスを持つ、エレガントなワインが多く生まれました。カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼといったプレディカーツヴァインは、それぞれのカテゴリーで素晴らしい複雑性とフィネスを示し、長期熟成のポテンシャルも十分に備えていました。特に冷涼な気候を生かした繊細なスタイルのワインが高く評価されました。ベルンカステラー・ドクトール、ヴェーレナー・ゾンネンウーア、シャルツホーフベルガー(モーゼル)、シュロス・ヨハニスベルガー(ラインガウ)、フォルスター・イエズイテンガルテン(ファルツ)といったドイツを代表するような著名な畑からは、この年に傑出した品質のワインが生産されました。
スペイン
リオハ
1962年のリオハは、傑出したヴィンテージとして高く評価されています。生育期間中の天候は非常に良好で、テンプラニーリョを主体とするブドウは完璧に近い状態で成熟しました。その結果生まれたワインは、素晴らしい凝縮感、豊かな風味、しっかりとしたストラクチャー、そして卓越したバランスを持ち、長期熟成によってそのポテンシャルを最大限に発揮するものでした。特にこの年に生産されたレセルバやグラン・レゼルバクラスのワインは、その品質の高さから称賛され、数十年を経てもなお楽しむことができるものが少なくありません。マルケス・デ・リスカル、CVNE(クネ)、ラ・リオハ・アルタといった歴史あるボデガは、この年に素晴らしいワインを生産しました。リベラ・デル・ドゥエロ地方でも、この年は高品質なワインが生まれたとされています。
ポルトガル
ポート
1962年のポートワインは、ヴィンテージ・ポートとして広範に宣言された年ではありませんでした。しかし、ブドウの品質自体は良好であったため、多くの主要ポートハウスはヴィンテージ宣言を見送ったものの、いくつかのキンタ(単一ブドウ畑)では、そのキンタ名を冠したシングル・キンタ・ヴィンテージポートとして非常に高品質なものが生産されました。また、この年は優れたコルヘイタ・ポート(単一収穫年の樽熟成トウニーポート)が生まれた年としても知られています。キンタ・ド・ノヴァル、キンタ・ド・ボンフィン(ダウ社所有)、キンタ・ダ・ロエダ(テイラー社所有)のような著名なキンタでは、凝縮感があり、複雑な風味を持ち、長期熟成によって素晴らしい発展を遂げるポートワインが生産されました。
アメリカ
カリフォルニア
1962年のカリフォルニアは、生育期間を通じて安定した好天に恵まれたヴィンテージでした。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといった主要品種は健全に完熟し、その結果、バランスが良く、エレガントで、品種の個性が明確に表現されたワインが多く生まれました。ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティといった主要産地では、特にカベルネ・ソーヴィニヨンが高く評価され、しっかりとした骨格と熟成能力を持つものが生産されました。ボーリュー・ヴィンヤードのジョルジュ・ド・ラトゥール・プライベート・リザーヴ・カベルネ・ソーヴィニヨンは、この年のカリフォルニアを代表する高品質なワインの一つとして知られています。
オーストラリア
1962年のオーストラリアは、主要なワイン産地において高品質なワインが生まれた優れたヴィンテージとされています。バロッサ・ヴァレー、クナワラ、ハンター・ヴァレーなどで、シラーズ(シラー)とカベルネ・ソーヴィニヨンは非常によく熟し、凝縮した果実味、しっかりとしたストラクチャー、そして豊かなタンニンを持つ、長期熟成型の素晴らしいワインが生産されました。この年のペンフォールズ・グランジ(当時はグランジ・ハーミテージ)は、オーストラリアワインのアイコンとして特に高い評価を受け、その力強さと複雑性、驚くべき熟成能力を示しました。リースリングもまた、バランスの取れた良質なものが造られました。