1960年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
ボルドー
1960年のボルドーは、20世紀の中でも特に厳しいヴィンテージの一つとして記録されています。生育期間を通じて冷涼で雨の多い天候が続き、ブドウの成熟は著しく妨げられました。冬から春にかけては寒く、開花期も気温が低く不安定で結実が悪く、夏も涼しい日が続き、降雨も頻繁でした。収穫期になっても天候は好転せず、カビの病害も発生しやすかったため、果実は十分に熟すことができず、未熟な緑色のニュアンスを残したまま収穫されることも少なくありませんでした。その結果、ワインは色が薄く、水っぽく、酸が非常に強く、果実味や凝縮感に著しく欠ける軽いものが大半でした。メドックの主要アペラシオン、例えばポイヤック(シャトー・ラトゥール、シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・ラフィット・ロートシルトなど)、サン・ジュリアン(シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ、シャトー・レオヴィル・バルトンなど)、マルゴー(シャトー・マルゴー、シャトー・パルメなど)、サンテステフ(シャトー・コス・デストゥルネル、シャトー・モンローズなど)では、ほとんどのシャトーで早飲みを強いられる、あるいは格落ちするような品質のワインしか生産できませんでした。グラーヴのシャトー・オー・ブリオンやシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンなども、この年の悪条件からは逃れられず、バランスに欠けるワインとなりました。右岸のポムロール(シャトー・ペトリュス、シャトー・ラフルール、シャトー・トロタノワ、ヴュー・シャトー・セルタン、シャトー・ラ・コンセイヤントなど)とサンテミリオン(シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・オーゾンヌ、シャトー・フィジャックなど)でも、メルロー主体でありながら非常に軽やかで、果実味が希薄、熟成能力もほとんど期待できないワインが中心でした。ソーテルヌとバルサックの甘口貴腐ワインにとっては壊滅的な年で、貴腐菌の発生はほぼ皆無に等しく、シャトー・ディケムやシャトー・クリマンといったトップシャトーも生産を大幅に制限するか、全く生産しない状況で、もし生産されたとしても品質は平凡なものでした。グラーヴの辛口白ワインも、シャトー・オー・ブリオン・ブランやドメーヌ・ド・シュヴァリエ・ブランなどで、酸が際立って強く、果実味に乏しく、熟成には全く不向きなものがほとんどでした。
ブルゴーニュ
1960年のブルゴーニュは、ボルドー同様に冷涼で雨の多い非常に困難なヴィンテージでした。ピノ・ノワールとシャルドネの双方にとってブドウの成熟は著しく不十分で、灰色カビ病も広範囲に発生し、収穫されたブドウの品質は低いものでした。赤ワインは色が薄く、酸が非常に強く、タンニンも未熟で、果実味に乏しいものが大半でした。コート・ド・ニュイのヴォーヌ・ロマネ(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの畑を含む)、シャンボール・ミュジニー、ジュヴレ・シャンベルタン、ニュイ・サン・ジョルジュ、クロ・ド・ヴージョといった名高いアペラシオンでさえ、軽く希薄で、早飲みのテーブルワイン程度の品質しか期待できませんでした。コート・ド・ボーヌのポマール(レ・リュジアンなど)、ヴォルネイ(クロ・デ・シェーヌなど)、アロース・コルトン(コルトンのグラン・クリュを含む)も同様の状況でした。白ワインも、ムルソー(レ・ペリエール、シャルムなど)、ピュリニー・モンラッシェ(モンラッシェ、バタール・モンラッシェなど)、シャサーニュ・モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュといった主要アペラシオンで、酸が鋭く、果実味が薄く、全体としてバランスに欠けるものが多く生産されました。シャブリでは特に酸っぱさが目立ち、マコネやボジョレーといった南部ブルゴーニュのワインも特徴に乏しい、凡庸なものが中心となりました。
ローヌ
1960年のローヌ地方は、北部(エルミタージュ、コート・ロティ、コルナスなど)と南部(シャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス、ヴァケラスなど)の双方にとって、非常に厳しい年でした。生育期間を通じて冷涼で湿度の高い天候が続き、シラー種やグルナッシュ種といった主要品種の成熟は著しく妨げられました。その結果、ワインは色が薄く、軽量で、凝縮感やスパイシーな風味、力強さに欠け、熟成のポテンシャルも乏しいものがほとんどでした。北部ローヌのポール・ジャブレ・エネのエルミタージュ・ラ・シャペルや、南部ローヌのシャトー・ド・ボーカステルといったトップクラスの生産者でさえ、この年は通常からはほど遠い、品質の低いワインしか生産できなかったと記録されています。
ロワール
1960年のロワール地方もまた、フランスの他の多くの地域と同様に、冷涼で雨の多い悪天候に苦しめられた年でした。ソーヴィニヨン・ブランを主体とするサンセールやプイィ・フュメでは、ブドウが十分に熟さず、ワインは非常に酸が強く、しばしば未熟な青臭さが感じられ、果実味に乏しいものとなりました。シュナン・ブランを用いるヴーヴレやモンルイなどのアペラシオンでも、辛口・甘口ともに成熟不足は明らかで、ワインはバランスが悪く、希薄で、長期熟成に耐えうるものはほぼ皆無でした。ミュスカデ地区のワインも酸が強く軽量で、カベルネ・フランを主体とするシノンやブルグイユなどの赤ワインも、色が薄く、軽く、個性や魅力に乏しいものが大半を占めました。
シャンパーニュ
1960年のシャンパーニュは、春の霜、冷涼で日照不足だった夏、そして収穫期の雨という悪条件が重なり、ブドウの成熟が著しく阻害された非常に困難なヴィンテージでした。収穫されたブドウは糖度が極めて低く、酸度が高いものが多く、健全な状態とは言えませんでした。そのため、ほとんどのシャンパン・メゾンがヴィンテージ・シャンパーニュの生産を見送りました。ノン・ヴィンテージのブレンドに使用されるベースワインでさえ品質が低く、生産量も限られたため、多くのメゾンにとって苦しい年となりました。
イタリア
ピエモンテ
1960年のピエモンテは、冷涼で雨の多い天候が支配的で、特に晩熟なネッビオーロ種にとっては成熟が非常に困難な年でした。バローロとバルバレスコでは、ブドウが十分に熟さず、ワインは色が薄く、タンニンは未熟で粗く、収斂味が強く、酸が際立って高いものが大半でした。果実味やストラクチャーにも欠け、長期熟成には全く不向きな軽いワインが多く生産されました。バローロ村、ラ・モッラ村、カスティリオーネ・ファレット村、セッラルンガ・ダルバ村、モンフォルテ・ダルバ村といったバローロの主要コミューンや、バルバレスコのコミューンにおいても、高品質なワインはほとんど生産されませんでした。
トスカーナ
1960年のトスカーナもまた、サンジョヴェーゼ種を主体とするブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、キャンティ・クラシコ、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノといった主要な赤ワインにとって非常に厳しいヴィンテージとなりました。生育期間中の多雨と日照不足により、ブドウは十分に熟すことができず、ワインは軽量で、酸が強く、果実味が不足し、タンニンも未熟なものが多く、主に早飲み向き、あるいはそれ以下の品質でした。モンタルチーノやキャンティ地区のワインは、バランスと複雑さに欠け、長期熟成のポテンシャルはほとんどありませんでした。
ドイツ
1960年のドイツワインは、冷涼で雨の多い、極めて困難な天候条件に見舞われた年でした。モーゼル、ラインガウ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要なワイン産地では、特にリースリング種の成熟が著しく不十分でした。その結果、生産されたワインの多くは酸が非常に強く、糖度が低く、アルコール度数も低く、全体としてバランスに欠け、非常に軽いスタイルとなりました。ベルンカステラー・ドクトールやヴェーレナー・ゾンネンウーアといったドイツを代表するような著名な畑でさえ、この年のワインの品質は著しく低いものでした。貴腐菌の発生はほぼ皆無で、高品質なアウスレーゼ以上のクラスの甘口ワインの生産は絶望的でした。
スペイン
リオハ
1960年のリオハは、不安定な天候と多雨により、テンプラニーリョを主体とするブドウの成熟が妨げられ、困難なヴィンテージとなりました。生産されたワインの多くは、色が薄く、軽量で、酸が強く、ストラクチャーや凝縮感に欠けていました。高品質なレセルバやグラン・レゼルバクラスのワインはほとんど生産されず、多くは早飲み向きのクリアンサ以下、あるいは格付けされないテーブルワインとして消費されました。一部の献身的な生産者が厳しい選果によってある程度の品質を保った可能性は否定できませんが、全体としては平均を大きく下回るヴィンテージと評価されています。
ポルトガル
ポート
1960年のポートワインは、他の多くのヨーロッパのワイン産地とは対照的に、傑出したヴィンテージとして高く評価されています。ドウロ渓谷は理想的な天候条件に恵まれ、特にトゥリガ・ナシオナルをはじめとする主要な黒ブドウ品種が完璧に近い状態で完熟しました。その結果、多くの主要なポートハウスがヴィンテージ・ポートを宣言し、非常に凝縮感があり、豊かな果実味、力強いタンニン、そして卓越した長期熟成能力を備えた素晴らしいワインが生産されました。フォンセカ、テイラーズ、グラハム、ダウといった名門ポートハウスは、この年にそれぞれの個性を反映した、歴史に残るヴィンテージ・ポートを世に送り出しました。これらのワインは、数十年の熟成を経てなおその素晴らしさを保っています。
アメリカ
カリフォルニア
1960年のカリフォルニアは、全体的に涼しい気候条件の年であり、一部の地域では収穫期に雨の影響も見られました。しかし、ヨーロッパの多くの産地が経験したような壊滅的な天候不順には見舞われず、平均的な品質のワインが生産されました。ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティで生産されたカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネは、比較的軽めでエレガントなスタイルとなり、際立った凝縮感や力強さはありませんでしたが、バランスの取れたものが造られました。
オーストラリア
1960年のオーストラリアは、バロッサ・ヴァレー、クナワラ、ハンター・ヴァレーといった主要なワイン産地において、シラーズ(シラー)やカベルネ・ソーヴィニヨンから概ね平均的な品質のワインが生産された年とされています。特筆すべき天候不順の記録は少なく、比較的安定したヴィンテージでしたが、傑出した評価を得るには至りませんでした。この年のペンフォールズ・グランジ(当時はグランジ・ハーミテージ)は、生産されましたが、他の偉大なヴィンテージと比較すると、まずまずの評価に留まるとされています。