1964年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
ボルドー
1964年のボルドーは、ヴィンテージの評価が右岸と左岸で大きく分かれる年となりました。生育期前半は温暖で乾燥した理想的な天候が続き、ブドウは順調に生育し、収穫前には素晴らしいヴィンテージになるとの期待が高まりました。特にメルロー種が主体となる右岸のポムロールやサンテミリオンでは、9月中の好天によりブドウが完璧に近い状態で成熟しました。多くの生産者が10月初旬に降り始めた雨の前にメルローを収穫できたため、これらの地域のワインは凝縮感があり、豊かな果実味と複雑性を備え、長期熟成にも耐えうる傑出した品質となりました。ポムロールではペトリュス、トロタノワ、ラフルール、ヴュー・シャトー・セルタンなどが、サンテミリオンではシュヴァル・ブラン、フィジャック、オーゾンヌなどが特に高い評価を受けました。しかし、10月8日頃から断続的に降り続いた雨が、主にカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫期にあった左岸のメドックやグラーヴに大きな影響を与えました。雨によりブドウが水分を吸って希薄になったり、完熟が妨げられたりしたため、多くのシャトーでは力強さや凝縮感に欠け、時に未熟な青っぽさが感じられるワインとなりました。ただし、シャトー・ラトゥールやシャトー・モンローズのように、最適なタイミングで収穫を終えたか、雨の影響を最小限に抑えられた一部のシャトーでは、力強さとエレガンスを兼ね備えた非常に優れたワインが生産されました。グラーヴのスミス・オー・ラフィットは、中程度のボディで、熟成により落ち着いた風味を示すとされています。ソーテルヌとバルサックの貴腐ワインにとっては困難な年で、10月の雨が貴腐菌の均一な発生と発展を阻害しました。その結果、酸がやや目立ち、バランスに欠けるワインが多くなりました。シャトー・ディケムはこの年にワインを生産しませんでしたが、シャトー・クリマンやシャトー・ラボー・プロミなど一部のシャトーでは、厳しい選果を経て少量の良質な貴腐ワインが造られました。グラーヴの辛口白ワイン、例えばラヴィル・オー・ブリオンやオー・ブリオン・ブランは、良好な品質を示し、熟成のポテンシャルも認められました。総じて、1964年のボルドーは右岸が際立って優れており、左岸は一部の例外を除いて難しいヴィンテージと評価されています。
ブルゴーニュ
1964年のブルゴーニュは、赤ワインと白ワインともに非常に優れた、記憶に残るヴィンテージとして高く評価されています。春から夏にかけての好天と、特に9月の理想的な気候条件が、健全で凝縮した果実の完璧な成熟を促しました。収穫期も安定した天候に恵まれました。ピノ・ノワールから造られる赤ワインは、豊かな果実味、しっかりとした構造を持つタンニン、そしてバランスの取れた酸を備え、長期熟成によってその真価を最大限に発揮するクラシックなスタイルとなりました。コート・ド・ニュイでは、ヴォーヌ・ロマネ(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのラ・ターシュやリシュブール、グラン・エシェゾー、エシェゾーを含む)、シャンボール・ミュジニー(ミュジニー、ボンヌ・マールなど)、ジュヴレ・シャンベルタン(クロ・ド・ベーズ、シャルム・シャンベルタンなど)、ニュイ・サン・ジョルジュ、そしてクロ・ド・ヴージョといった名高いアペラシオンで、卓越した品質のワインが数多く生まれました。コート・ド・ボーヌにおいても、ポマール、ヴォルネイ、ボーヌ、サヴィニー・レ・ボーヌ、アロース・コルトン(コルトンなど)で力強く、複雑性に富んだ赤ワインが生産され、コルトン・シャルルマーニュの白ワインも素晴らしいものでした。シャルドネから造られる白ワインも同様に傑出しており、特にコート・ド・ボーヌのムルソー、ピュリニー・モンラッシェ(モンラッシェ、バタール・モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェなど)、シャサーニュ・モンラッシェでは、豊かなミネラル感と熟成によって増す深遠な複雑性を持つ、偉大なワインが生まれました。シャブリ地区では、全体的に良好な品質で、特徴的な引き締まった酸とミネラル感を持つワインが造られましたが、コート・ドールほどの評価には至りませんでした。
ローヌ
1964年のローヌ地方は、特に北部ローヌにおいてシラー種から傑出したワインが生まれた年として知られています。エルミタージュ、コート・ロティ、コルナス、サン・ジョセフなどのアペラシオンでは、非常に力強く、スパイシーで、凝縮感があり、長期熟成に素晴らしいポテンシャルを秘めた赤ワインが生産されました。ポール・ジャブレ・エネのエルミタージュ・ラ・シャペルは、このヴィンテージを代表する伝説的なワインの一つとしてしばしば引用されます。南部ローヌのシャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス、ヴァケラスなどでは、グルナッシュ主体で造られるワインが良好な品質に達し、バランスの取れたものでしたが、北部ローヌのワインが受けたような際立った評価には至りませんでした。それでも、シャトー・ド・ボーカステルやシャトー・ラヤスといったトップ生産者は、このヴィンテージでも注目に値する高品質なワインを生産しました。
ロワール
1964年のロワール地方では、多様なスタイルのワインが生産され、概ね良好なヴィンテージとなりました。ソーヴィニヨン・ブランを主体とするサンセールとプイィ・フュメは、フレッシュで生き生きとした酸と、品種特有のアロマが際立つエレガントな白ワインとなりました。シュナン・ブランから造られるヴーヴレとモンルイでは、辛口から甘口まで幅広いスタイルのワインが成功を収めました。辛口はバランスが良く、甘口、特にモワルーやリクローといった貴腐化したブドウを用いたものは、良好な酸と豊かな果実味を持ち、熟成によって素晴らしい複雑さが楽しめるポテンシャルを示しました。アンジュー・ソミュール地区のカベルネ・フランを主体とする赤ワインも、比較的良好な品質で、果実味とストラクチャーのバランスが取れたものが造られました。
シャンパーニュ
1964年のシャンパーニュは、優れたヴィンテージとして高く評価されています。夏の暑く乾燥した気候がブドウの素晴らしい成熟を促し、収穫されたシャルドネとピノ・ノワールは品質、糖度、酸度のバランスが非常に良好でした。この結果、力強さとフィネスを兼ね備え、複雑な風味を持ち、長期熟成にも適したヴィンテージ・シャンパーニュが数多く生まれました。多くの主要なシャンパン・メゾンが高品質なミレジメ(ヴィンテージ・シャンパーニュ)をリリースし、それらは今日でも楽しむことができるポテンシャルを持っています。
イタリア
ピエモンテ
1964年のピエモンテは、バローロとバルバレスコにおいてネッビオーロ種から傑出したワインが生まれた、偉大なヴィンテージの一つとして記憶されています。春から夏にかけての好天と、9月の乾燥した理想的な気候条件が、ブドウの健全な完熟を促しました。その結果、ワインは豊かな風味、力強いタンニン、しっかりとした酸、そして素晴らしい凝縮感を備え、長期熟成によってそのポテンシャルを最大限に発揮するクラシックなスタイルとなりました。バローロ村、ラ・モッラ村、カスティリオーネ・ファレット村、セッラルンガ・ダルバ村、モンフォルテ・ダルバ村などの主要コミューンや、バルバレスコ、トレイゾ、ネイヴェといったバルバレスコ地区の村々で、非常に高い評価を受けるワインが生産されました。ジャコモ・コンテルノ、ブルーノ・ジャコーザ、アンジェロ・ガヤといった伝説的な生産者たちは、この年に素晴らしいワインを世に送り出しました。
トスカーナ
1964年のトスカーナは、総じて優良なヴィンテージと評価されています。サンジョヴェーゼを主体とする主要な赤ワイン、すなわちキャンティ・クラシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノなどで、ブドウは健全に成熟し、品質の高いワインが多く造られました。これらのワインは、バランスの取れた酸とタンニン、豊かな果実味、そして良好なストラクチャーを持ち、熟成に適したものが多く見られました。特にブルネッロ・ディ・モンタルチーノでは、ビオンディ・サンティのような伝統的な生産者が、長期熟成によって真価を発揮するクラシックで力強いワインを生産し、高い評価を得ました。
ドイツ
1964年のドイツワインは、全体として困難なヴィンテージでした。春の霜や、冷涼で雨が多かった夏がブドウの成熟を遅らせ、十分な糖度を得るのが難しい年となりました。モーゼル、ラインガウ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要なワイン産地では、結果として酸が強く、ボディの軽いワインが多く見られました。しかし、一部の優れた畑を持つ生産者や、厳しい選果を行った熱心な生産者は、特にリースリング種から、カビネットやシュペートレーゼのカテゴリーで、繊細でエレガント、かつフィネスのあるワインを少量ながら生産することに成功しました。貴腐菌の発生は極めて限定的で、ベーレンアウスレーゼやトロッケンベーレンアウスレーゼといった高級甘口ワインの生産はほぼ皆無でした。ベルンカステラー・ドクトール、ヴェーレナー・ゾンネンウーア、ヨハニスベルガー、フォルスター・イェズイーテンガルテンといった著名な畑においても、通常年に比べると品質は控えめなものが多かったとされています。
スペイン
リオハ
1964年のリオハは、20世紀におけるスペインワイン、特にリオハを代表する伝説的なヴィンテージの一つとして広く認識されています。生育期を通じて天候は非常に安定しており、特に収穫期は理想的な条件に恵まれました。テンプラニーリョを主体とするブドウは完璧に成熟し、その結果生まれたワインは、素晴らしい凝縮感、力強さ、複雑な風味、そして卓越した長期熟成能力を備えていました。この年に造られた特にグラン・レゼルバクラスのワインは、数十年を経た現在でもその素晴らしさを保ち、高い評価を受け続けています。マルケス・デ・リスカル、CVNE(クネ)、ラ・リオハ・アルタといった歴史あるワイナリーは、この年に傑出したワインを生産しました。リベラ・デル・ドゥエロ地方でも、この年には高品質なワインが生まれたと記録されています。
ポルトガル
ポート
1964年のポートワインは、多くの主要なポートハウスによってヴィンテージ・ポートとして一般的に宣言されることはありませんでした。しかし、宣言されなかった年であっても、優れた品質のシングルキンタ・ヴィンテージポート(単一畑のヴィンテージポート)がいくつか生産され、これらは高い評価を受けています。また、この年は特に高品質なコルヘイタ・ポート(単一収穫年の樽熟成トウニーポート)や、長期熟成タイプのトウニー・ポートが造られたことでも知られています。ドウロ渓谷のキンタ・ド・ノヴァル、キンタ・ド・ボンフィン(ダウ社)、キンタ・ダ・ロエダ(テイラー社)のような著名なキンタ(ブドウ畑および醸造所)では、熟成によって素晴らしい複雑さと甘美な味わいを持つ、優れたポートワインが生み出されました。
アメリカ
カリフォルニア
1964年のカリフォルニアは、ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティなどの主要産地において、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心とした高品質なワインが生まれたヴィンテージとされています。生育期の気候条件は、ブドウがゆっくりと、しかし確実に成熟するのを助け、結果としてエレガントでバランスの取れたワインが多く造られました。これらのワインは、しっかりとした酸、複雑な風味、そして良好なストラクチャーを持ち、クラシックなスタイルの長期熟成型ワインとして評価されました。この時期はカリフォルニアワイン産業が近代的な発展を遂げる途上にあり、1964年ヴィンテージはその質の高まりを示す一例となりました。
オーストラリア
1964年のオーストラリアワインに関するヴィンテージ評価は、他の主要産地ほど詳細な記録が多く残っているわけではありません。バロッサ・ヴァレー、クナワラ、ハンター・ヴァレーといった主要なワイン産地では、シラーズ(シラー)やカベルネ・ソーヴィニヨンから、概ね平均的な品質のワインが生産されたと考えられています。特筆すべき豊作や不作といった極端な状況の記録は少なく、ヴィンテージ全体としては安定していたものの、際立って傑出した評価を得るには至らなかったようです。ただし、個々の生産者や特定の畑によっては、長期熟成に耐えうる良質なワインが生まれた可能性はあります。