1963年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
1963年のフランスは、多くの主要ワイン産地で非常に困難なヴィンテージとなりました。全国的に冷涼で湿度の高い夏に見舞われ、その後の収穫期も悪天候が続いたため、ブドウの成熟が十分に進まないという問題が広範囲で発生しました。こうした気象条件の結果、多くの地域で品質の低いワインしか生産できませんでした。
ボルドー
1963年のボルドーは、総じて非常に困難な、そして品質の低いヴィンテージとして記録されています。生育期間を通じて好ましくない気候に見舞われ、特に夏場の涼しさと湿気、そして収穫期の悪天候がブドウの成熟を深刻に阻害しました。このため、健全なブドウの収穫が極めて難しく、多くの地域で品質の低いワインしか生産できませんでした。
メドック (Medoc) / 左岸: 主要品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンが十分に成熟せず、ワインは非常に淡い色合いで、酸味が強く薄い特徴を持つものが主流でした。
- ポイヤック (Pauillac): タンニンは未熟で硬く、果実味は不足していました。
- サン・テステフ (Saint-Estephe): 同様に果実味が乏しく、酸味が際立ちました。
- サン・ジュリアン (Saint-Julien): ヴィンテージの難しさが品質に直接的に反映され、注目すべきワインはほとんど生産されませんでした。
- マルゴー (Margaux): 多くのワインはバランスに欠け、長期熟成には全く適さないものでした。
グラーヴ / ペサック・レオニャン (Graves / Pessac-Leognan): 赤ワインも同様に、淡く楽しめないものが多かったとされています。辛口白ワインについても、傑出したものは期待できませんでした。
サン・テミリオン / ポムロール (Saint-Emilion / Pomerol) / 右岸: メルローも困難な気候の影響を大きく受けました。ブドウは成熟せず、ワインは淡く構造が不足し、時に青っぽいニュアンスを持つものが見られました。サンテミリオンやポムロールのトップシャトーでも、品質の確保は極めて困難であり、例年通りのレベルのワインを造ることはほぼ不可能でした。多くのワインが品質基準を満たさず、格下げされたり、バルク(大量販売用の安価なワイン)として売却されたりしました。右岸の赤ワインも、早期消費ですら楽しみが限られるものがほとんどでした。
ソーテルヌ / バルサック (Sauternes / Barsac): 甘口ワインにとっても、1963年は極めて難しいヴィンテージでした。貴腐菌(ボトリティス・シネレア)の理想的な発生に必要な気候条件が全く整わず、品質の高い甘口ワインは事実上生産されませんでした。一部でわずかに生産されたとしても、注目すべきレベルには達していませんでした。
ブルゴーニュ
1963年のブルゴーニュは、ボルドーと同様に非常に困難な、そして品質の低いヴィンテージと評価されています。生育期間中の好ましくない気候、特に夏場の涼しさと湿気、そして収穫期の悪天候がブドウの成熟と健全性に深刻な影響を与えました。これにより、収穫量も少なく、品質も極めて低くなりました。
コート・ド・ニュイ (Cote de Nuits): 赤ワイン(ピノ・ノワール)は、非常に淡い色合いで、酸が非常に高く、タンニンが硬く未熟な、バランスを欠いたワインが主流でした。
- ジュヴレ・シャンベルタン (Gevrey-Chambertin): 果実味はほとんど感じられず、時に青っぽいあるいはハーブのようなニュアンスを持つものが見られました。
- モレ・サン・ドニ (Morey-Saint-Denis): 同様に果実の成熟が不十分で、酸味が際立ちました。
- シャンボール・ミュジニー (Chambolle-Musigny): 薄く、酸が強いワインが主流でした。
- ヴージョ (Vougeot): 果実味が乏しく、酸が際立つワインが多く見られました。
- ヴォーヌ・ロマネ (Vosne-Romanee): 優れたドメーヌでも、このヴィンテージで飲むに値するワインを造ることはほぼ不可能でした。
- ニュイ・サン・ジョルジュ (Nuits-Saint-Georges): これらのワインは長期熟成には全く適さず、若い頃から楽しみが限られていました。
コート・ド・ボーヌ (Cote de Beaune): 赤ワインも同様に、アロース・コルトン (Aloxe-Corton)、ボーヌ (Beaune)、ポマール (Pommard)、ヴォルネイ (Volnay) といった村々で、淡く酸が突出したワインが主流でした。
白ワイン (Chardonnay): 赤ワインと同様に極めて困難な出来でした。酸が非常に高く、果実味が不足している傾向が見られました。
- ムルソー (Meursault): 全般的には品質の低いヴィンテージと評価されています。
- ピュリニー・モンラッシェ (Puligny-Montrachet): 同様に果実の成熟が不十分で、バランスを欠くワインが多く見られました。
- シャサーニュ・モンラッシェ (Chassagne-Montrachet): 酸が強く、果実味に乏しいワインが多く生産されました。
シャブリ (Chablis): さわやかさやミネラル感はありますが、非常に薄く楽しめないワインが多かったとされています。全体として、ブルゴーニュの1963年は、赤・白ともに品質が極めて低く、避けるべきヴィンテージの一つとして広く認識されています。
ローヌ
1963年のローヌ地方は、北部・南部ともに非常に困難な、そして品質の低いヴィンテージと評価されています。生育期間中の好ましくない気候条件により、ブドウは十分に成熟せず、健全な状態を保つことも困難でした。
北部ローヌ (Northern Rhone): 主要品種であるシラーは、夏の気候の影響を大きく受け、淡く薄いスタイルとなりました。
- エルミタージュ (Hermitage): 凝縮感や複雑さは全く期待できませんでした。
- コート・ロティ (Cote-Rotie): 注目すべきワインは生産されず、早期消費ですら楽しみが限られるものが主流でした。
- クローズ・エルミタージュ (Crozes-Hermitage): 同様に品質の低いワインが多く見られました。
- サン・ジョセフ (Saint-Joseph) / コルナス (Cornas): 淡く果実味に乏しいワインが主流でした。
南部ローヌ (Southern Rhone): 同様に極めて困難なヴィンテージでした。
- シャトーヌフ・デュ・パプ (Chateauneuf-du-Pape): グルナッシュを主体とする赤ワインは、淡く果実味が控えめなものがほとんどでした。ヴィンテージの難しさが品質に深刻な影響を与え、偉大なヴィンテージに見られる構造や複雑さは全くありませんでした。
- ジゴンダス (Gigondas) / ヴァケラス (Vacqueyras): 全般的には質の低い出来でした。
全体として、ローヌの1963年は、品質の面では全く注目すべきものではなく、多くのワインは既に長い間飲み頃を過ぎています。
ロワール
1963年のロワール地方は、全般的に非常に困難なヴィンテージと評価されています。生育期間中の好ましくない気候条件により、ブドウの成熟が不十分で、品質が極めて低くなりました。
サントル・ニヴェルネ (Centre-Nivernais):
- サンセール (Sancerre) / プイィ・フュメ (Pouilly-Fume): ソーヴィニヨン・ブランの産地であるこれらの地域では、全般的に淡く酸が非常に高い白ワインが生産されました。果実味が不足しており、アロマティックな表現力も限られていました。
アンジュー・ソミュール (Anjou-Saumur) / トゥーレーヌ (Touraine):
- ヴーヴレ (Vouvray) / モンルイ・シュール・ロワール (Montlouis-sur-Loire): シュナン・ブランの産地であるこれらの地域では、辛口、半辛口、甘口のいずれのスタイルも品質は極めて低調でした。酸が高く、バランスに欠けるワインが主流でした。甘口ワインも、貴腐の発生が限られていたため、注目すべきものは生産されませんでした。
- サヴニエール (Savennieres): 品質は非常に低かったとされています。
- シノン (Chinon) / ブルグイユ (Bourgueil): カベルネ・フランを主体とするこれらの赤ワイン産地では、淡い色合いで、青っぽいニュアンスや硬いタンニンを持つワインがほとんどでした。果実味が不足しており、楽しめないものが主流でした。
全体として、ロワールの1963年は、品質の面では全く注目すべきヴィンテージではなく、避けるべきヴィンテージの一つです。
アルザス
1963年のアルザスも、フランスの他の地域と同様に困難なヴィンテージでした。冷涼で湿度の高い夏の影響で、ブドウの成熟が不十分となり、全体的に品質の低いワインとなりました。リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリといった主要品種は、酸が高く、果実の熟度が不足するワインが大半でした。早期消費向きの軽いスタイルのワインが中心で、長期熟成には適していません。
シャンパーニュ
1963年のシャンパーニュも、フランスの他の地域と同様に厳しい年でした。冷涼で湿度の高い夏により、ブドウの成熟が十分に進まず、酸が高く、果実味に乏しいベースワインとなりました。多くのメゾンはこの年のヴィンテージ・シャンパーニュの生産を見送り、ノン・ヴィンテージ向けのブレンドに使用しました。生産されたものも全体的に軽く、酸が際立つスタイルで、長期熟成には適していませんでした。
イタリア
1963年のイタリアは、全体として困難なヴィンテージと評価されています。地域によって品質に差が見られましたが、多くの主要産地で気候条件が理想的ではなかったため、全般的には平均的またはそれ以下の出来でした。
ピエモンテ (Piedmont): 傑出したヴィンテージではありませんでした。ネッビオーロは十分に成熟するのが難しく、ワインは淡く構造が不足している傾向が見られました。バローロ (Barolo) やバルバレスコ (Barbaresco) は通常の品質には達せず、長期熟成のポテンシャルも限られていました。
ヴェネト (Veneto): 概ね平均的な出来でした。一部の生産者は健闘しましたが、全体としては特筆すべきヴィンテージではありませんでした。
トスカーナ (Tuscany): 困難なヴィンテージでした。サンジョヴェーゼは気候の影響を受け、品質の確保が困難な地域が多くありました。
- キャンティ・クラシコ (Chianti Classico): 淡く、酸が強く、果実味に乏しいワインが多く見られました。
- ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ (Brunello di Montalcino): 満足のいくワインは限られており、全体としては注目すべきヴィンテージではありませんでした。
南イタリア: 地域によって状況は異なりますが、全般的には特別なヴィンテージではありませんでした。
スペイン
1963年のスペインは、全体として平均的または困難なヴィンテージと評価されています。地域によって品質に差が見られました。
リオハ (Rioja): 品質は全般的には平凡でした。夏の気候が理想的ではなく、ブドウの成熟が不均一になったり、品質にばらつきが出たりしました。ワインは全般的に淡いスタイルで、長期熟成のポテンシャルは限られていました。
リベラ・デル・ドゥエロ (Ribera del Duero): その他の主要地域についても、傑出したヴィンテージではありませんでした。
全体として、スペインの1963年は、品質の面では特別なものではなく、多くのワインは既に飲み頃を過ぎています。
ドイツ
1963年のドイツは、全体として非常に困難な、品質の低いヴィンテージと評価されています。夏の気候が涼しく湿気が多く、収穫期にかけての悪天候がブドウの成熟に深刻な影響を与え、病害も広範囲に発生しました。
リースリングは、十分に成熟するのが極めて困難でした。ワインは全般的に淡く、酸が非常に高く、果実味が不足している傾向が見られました。モーゼル (Mosel)、ラインガウ (Rheingau)、ナーエ (Nahe)、ファルツ (Pfalz)、ラインヘッセン (Rheinhessen) といった主要地域でも、品質の高いワインは皆無に近く、多くのワインはバランスを欠き楽しめるものではなかったとされています。特に甘口ワインは、貴腐の発生がほとんどなかったため、注目すべきものは生産されませんでした。アイスワインについても、生産できたとしても品質は限られていたと考えられます。全体として、ドイツの1963年は、品質の面で極めて貧弱なヴィンテージであり、避けるべきヴィンテージの一つです。
ポルトガル - ポートワイン
1963年は、他の多くのヨーロッパのワイン産地とは対照的に、ポートワインにとっては特筆すべき傑出したヴィンテージとなりました。ドウロ渓谷では気候条件が理想的に揃い、凝縮感があり、タンニンが豊富で、複雑味のある素晴らしいヴィンテージポートが生産されました。テイラー (Taylor's)、フォンセカ (Fonseca)、グラハム (Graham's)、ウォア (Warre's)、ダウ (Dow's) などの主要生産者が揃ってヴィンテージ宣言を行い、長期熟成のポテンシャルを持つ傑出した品質のワインを生産しました。1963年のヴィンテージポートは、オールドヴィンテージポートの中でも最も評価の高いものの一つとして現在も高く評価されており、長期熟成を経た今でも素晴らしい状態を保っているものが多く見られます。
アメリカ
1963年のアメリカ、特にカリフォルニア州は、全般的に満足のいくヴィンテージだったという評価が見られます。一部で課題はあったものの、品質の高いワインも生産されました。
カリフォルニア (California): 生育期間を通して比較的安定した気候だった地域が多く、ブドウは健全に成熟しました。
- ナパ・ヴァレー (Napa Valley): カベルネ・ソーヴィニヨンやその他の品種で満足のいく品質のワインが生産されました。ワインは全般的にバランスが取れ、表現力豊かな果実味を持つものが見られました。過度に暑い年ではなかったため、フレッシュさも比較的保たれていました。一部の著名な生産者からは、長く持続するワインも生産されたという情報も見られます。
- ソノマ・カウンティ (Sonoma County): 同様に比較的良好なヴィンテージでした。
オレゴン (Oregon) / ワシントン (Washington): これらの地域についても、入手可能な情報は限られていますが、全般的には満足のいくヴィンテージだった地域もあった可能性があります。
オーストラリア
1963年のオーストラリアは、地域によってヴィンテージの出来にばらつきが見られました。全体としては平均的またはそれ以上の品質のワインが生産された地域も見られます。
南オーストラリア (South Australia): バロッサ・ヴァレー (Barossa Valley) など、一部の主要産地では、満足のいくヴィンテージでした。シラーズ (Shiraz) やカベルネ・ソーヴィニヨン (Cabernet Sauvignon) といった主要品種で、品質の高いワインが生産された地域もあります。特に、酒精強化ワインであるヴィンテージ・ポートに関しては、品質が高く評価されているものも見られます。バロッサ・ヴァレーでは、記録によるとブドウの収穫量が比較的豊富でした。
西オーストラリア (Western Australia): 他の地域についても品質の高いワインが生産されたという報告も見られます。全体として、オーストラリアの1963年は、一貫して優れているというわけではありませんでしたが、成功した地域では品質の高いワインが生産されたヴィンテージでした。