1974年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
ボルドー
1974年のボルドーは、総じて困難な、そして品質の低いヴィンテージとして広く評価されています。春と初夏は比較的良好だったものの、収穫期の9月に大量の雨が降り、ブドウの熟成を著しく妨げました。生育期間を通じて不利な気候に見舞われ、特に夏場の涼しさと湿気、そして収穫期の悪天候がブドウの成熟を著しく阻害しました。このため、健全なブドウの収穫が極めて難しく、多くの地域で品質の低いワインしか生産できませんでした。
左岸のメドック地区では、主要品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンが十分に成熟せず、ワインは非常に淡い色合いで、酸味が強く薄い特徴を持つものが主流でした。タンニンは未熟で硬く、果実味は不足していました。ポイヤック(シャトー・ラフィット・ロスチャイルド、シャトー・ムートン・ロスチャイルド、シャトー・ラトゥールなど)、サンテステフ(シャトー・コス・デストゥルネル、シャトー・モンローズなど)、サン・ジュリアン(シャトー・デュクリュ・ボーカイユ、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズなど)、マルゴー(シャトー・マルゴー、シャトー・パルメなど)といったアペラシオンでも、ヴィンテージの難しさが品質に直接的に反映され、注目すべきワインはほとんど生産されませんでした。多くのワインはバランスに欠け、長期熟成には全く適さないものでした。グラーヴ地区の中では比較的良好な出来となり、シャトー・オー・ブリオンなどが健闘しています。辛口白ワインについても、優れたものは期待できませんでした。
右岸のポムロールやサンテミリオンでも、メルローは困難な気候の影響を大きく受けました。ブドウは成熟せず、ワインは軽く構造が不足し、時に青臭いニュアンスを持つものが見られました。サンテミリオンやポムロールのトップシャトーでも、品質の確保は極めて困難であり、例年通りのレベルのワインを造ることはほぼ不可能でした。多くのワインが品質基準を満たさず、格下げされたり、バルクで売却されたりしました。右岸の赤ワインも、早期消費ですら楽しみが限られるものがほとんどでした。一部の著名なシャトーからは、この困難な年にもかかわらず比較的良好なワインが生産されたという稀な報告も見られますが、全体的な傾向とは大きく異なります。
ソーテルヌおよびバルサックの甘口ワインにとっても、1974年は極めて難しいヴィンテージでした。貴腐菌(ボトリティス・シネレア)の理想的な発生に必要な気候条件が全く整わず、品質の高い甘口ワインは事実上生産されませんでした。一部でわずかに生産されたとしても、注目すべきレベルには達していませんでした。
ブルゴーニュ
1974年のブルゴーニュは、全体として困難で品質の低いヴィンテージと評価されています。生育期間中の不利な気候、特に夏場の涼しさと湿気、そして収穫期の悪天候がブドウの成熟と健全性に深刻な影響を与えました。これにより、収穫量も少なく、品質も低くなりました。
赤ワイン(ピノ・ノワール)は、非常に淡い色合いで、酸が高く、タンニンが硬い、バランスの取れていないワインが主流でした。果実味が不足しており、時に青臭いニュアンスを持つものも見られました。コート・ド・ニュイのジュヴレ・シャンベルタン、モレ・サン・ドニ、シャンボール・ミュジニー、ヴージョ、ヴォーヌ・ロマネ、ニュイ・サン・ジョルジュといったアペラシオンや、グラン・クリュ、プルミエ・クリュ畑でも、ヴィンテージの難しさが品質に甚大な影響を与えました。しかし、収量を厳しく制限した一部の生産者は、比較的良好なワインを生産することに成功しました。
コート・ド・ボーヌの赤ワインも同様に、アロース・コルトン、ボーヌ、ポマール、ヴォルネーといった村々で、軽く酸が際立ったワインが主流でした。
白ワイン(シャルドネ)も、赤ワインと同様に極めて困難な出来でした。酸が非常に高く、果実味が不足している傾向が見られました。コート・ド・ボーヌの白ワイン産地であるムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェでも、一般的には品質の低いヴィンテージと評価されています。シャブリ地区でも、シャープさやミネラル感はありますが、非常に薄く楽しめないワインが多かったとされています。全体として、ブルゴーニュの1974年は、赤・白ともに品質が低く、避けるべきヴィンテージの一つとして広く認識されています。
ローヌ
1974年のローヌ地方は、北部・南部ともに一般的に平均的または困難なヴィンテージと評価されています。生育期間中の不利な気候条件により、ブドウは十分に成熟せず、健全な状態を保つことも困難でした。
北部ローヌでは、主要品種であるシラーは、夏の気候の影響を大きく受け、品質にばらつきが見られました。ワインは一般的に軽いスタイルで、凝縮感や複雑さは限られていました。エルミタージュ、コート・ロティ、クローズ・エルミタージュ、サン・ジョセフ、コルナスといったアペラシオンでも、注目すべきワインは生産されず、早期消費向けのものが主流でした。一部の畑や生産者からは満足のいくワインが生産されましたが、全体としては特筆すべきヴィンテージではありませんでした。
南部ローヌも概ね同様の傾向で、グルナッシュを主体とする赤ワインは、軽く果実味が控えめなものが多かったとされています。シャトーヌフ・デュ・パプでも、ヴィンテージの難しさが品質に影響し、偉大なヴィンテージに見られる構造や複雑さは限られていました。ジゴンダス、ヴァケイラスといったアペラシオンも一般的には平均的な出来でした。全体として、ローヌの1974年は、品質の面では特別なものではなく、多くのワインは既に飲み頃を過ぎていると考えられます。
ロワール
1974年のロワール地方は、全般的に非常に困難なヴィンテージと評価されています。生育期間中の不利な気候条件により、ブドウの成熟が不十分で、品質が極めて低くなりました。
ソーヴィニヨン・ブランの産地であるサンセールやプイィ・フュメでは、一般的に軽く酸が非常に高い白ワインが生産されました。果実味が不足しており、アロマティックな表現力も限られていました。
シュナン・ブランの産地であるヴーヴレやモンルイ・シュール・ロワールでは、辛口、半辛口、甘口のいずれのスタイルも品質は極めて低調でした。酸が高く、バランスに欠けるワインが主流でした。甘口ワインも、貴腐の発生が限られていたため、注目すべきものは生産されませんでした。サヴニエールでも、品質は非常に低かったとされています。
カベルネ・フランを主体とする赤ワイン産地であるシノンやブルグイユでは、淡い色合いで、青臭いニュアンスや硬いタンニンを持つワインがほとんどでした。果実味が不足しており、楽しめないものが主流でした。全体として、ロワールの1974年は、品質の面では全く注目すべきヴィンテージではなく、避けるべきヴィンテージの一つです。
アルザス
1974年のアルザスは、フランスの他の地域と比較してやや良好な結果となりました。リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ピノ・ブランといった主要品種は、酸のバランスが取れたワインとなりました。一部の生産者や畑からは満足のいくワインも生産され、地域によっては健闘したワインも見られました。
全体として、アルザスの1974年は、フランスの他の地域の困難さと比較すると、相対的に良好なヴィンテージと言えます。酸味とミネラル感のバランスが取れた白ワインが生産されました。
シャンパーニュ
1974年のシャンパーニュも、フランスの他の地域と同様に困難なヴィンテージでした。収穫期の雨の影響でブドウの成熟が不十分となり、酸が高く果実味の乏しいベースワインとなりました。
シャンパーニュ・ハウスは、そのブレンド技術とリザーブワインの使用によって、一部で飲める品質のシャンパーニュを生産しましたが、全体としては平均的なヴィンテージと評価されています。ほとんどのシャンパーニュは既に飲み頃を過ぎていると考えられます。
イタリア
1974年のイタリアは、フランスなど他のヨーロッパのワイン産地と比較して比較的良好なヴィンテージとなりました。特に北部ピエモンテ地方では、バローロやバルバレスコなどネッビオーロから造られる赤ワインが良好な出来となりました。
北部イタリアでは、ピエモンテ州(バローロ、バルバレスコ)が健闘し、ネッビオーロからは凝縮感と良好な構造を持つワインが生産されました。バローロとバルバレスコは長期熟成に適した品質を示し、現在でも飲み頃のものが見られます。ヴェネト州も概ね良好な出来でした。
中部イタリアでは、トスカーナ州(キャンティ・クラシコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ)は平均的なヴィンテージでした。サンジョヴェーゼは気候の影響を受けましたが、一部の生産者からは満足のいく品質のワインが生産されました。
南イタリアも、地域によって状況は異なりますが、一般的には例外的なヴィンテージではありませんでした。全体として、イタリアの1974年は、地域によって品質に差が見られますが、特に北部ピエモンテでは健闘したヴィンテージと言えます。
スペイン
1974年のスペインは、全体として平均的または困難なヴィンテージと評価されています。地域によって品質に差が見られました。
リオハでは、品質は一般的には特筆すべきものではありませんでした。夏の気候が理想的ではなく、ブドウの成熟が不均一になったり、品質にばらつきが出たりしました。ワインは一般的に軽いスタイルで、長期熟成のポテンシャルは限られていました。
リベラ・デル・ドゥエロといったその他の主要地域についても、優れたヴィンテージではありませんでした。全体として、スペインの1974年は、品質の面では特別なものではなく、多くのワインは既に飲み頃を過ぎていると考えられます。
ドイツ
1974年のドイツは、一般的に不良なヴィンテージと評価されています。夏の気候が涼しく湿気が多く、収穫期にかけての悪天候がブドウの成熟に深刻な影響を与えました。
リースリングは、十分に成熟するのが極めて困難でした。ワインは一般的に軽く、酸が高く、果実味が不足している傾向が見られました。モーゼル、ラインガウ、ナーエ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要地域でも、品質の高いワインは皆無に近く、多くのワインはバランスが取れておらず楽しめないものでした。甘口ワインは生産量が限られ、注目すべきものはほとんどありませんでした。
全体として、ドイツの1974年は、品質の面で不良なヴィンテージと評価されています。ラインヘッセン地域のみが比較的良好な結果を残しましたが、他の地域はほぼ全滅に近い状態でした。
アメリカ
1974年のアメリカ、特にカリフォルニア州は、一般的に優れたヴィンテージと評価されています。生育期間を通して理想的な気候条件に恵まれ、品質の高いブドウが豊富に収穫されました。欧州の主要ワイン産地が苦戦する中、カリフォルニアは例外的に良好なヴィンテージとなりました。
カリフォルニア州では、春から夏にかけて温暖で安定した気候が続き、ブドウは健全に、そして理想的に成熟しました。収穫期も理想的な天候でした。ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティといった主要地域では、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、シャルドネといった主要品種がいずれも品質が非常に高いものとなりました。特に赤ワインは、凝縮感がありながらもバランスが取れ構造のしっかりした、長期熟成可能なワインが生産されました。
特筆すべきは、この年のステイグス・リープ・ワイン・セラーズのカベルネ・ソーヴィニヨン「SLV」で、ヴィンテージの成功を象徴するワインとなりました。この1974年には「パリス・テイスティング」(1976年に行われたブラインド・テイスティング)で使用されたカリフォルニアワインの多くが生産された年でもあり、カリフォルニアワインの歴史において重要な年となりました。
オレゴン州やワシントン州といった他の地域についても、入手可能な情報は限られていますが、一般的には満足のいくヴィンテージだった地域もあった可能性があります。全体として、アメリカの1974年は、世界的に見ても優れたヴィンテージと評価できます。
オーストラリア
1974年のオーストラリアは、地域によってヴィンテージの出来にばらつきが見られましたが、一般的に不良なヴィンテージと評価されています。東部地域では収穫期の雨が問題となった地域もありました。
南オーストラリア州のバロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェール、クナワラといった地域でも、一般的には満足のいく品質のワインは限られていました。シラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンは、品質にばらつきが見られました。ヴィクトリア州や西オーストラリア州のマーガレット・リヴァーといった地域でも、一般的には注目すべきヴィンテージではありませんでした。
全体として、オーストラリアの1974年は、多くの主要産地で品質が低く、避けるべきヴィンテージの一つと評価されています。ただし、一部の生産者は厳しい選果と慎重な醸造によって、比較的良好なワインを生産することに成功しました。