2008年のヴィンテージ作柄・出来・評価
フランス
ボルドー
2008年のボルドーは、総じて良好な、そして多くのシャトーで品質の高いワインが生産されたヴィンテージとして評価されています。生育期間の前半は厳しい気候でしたが、9月以降の理想的な天候がブドウの成熟を助け、ヴィンテージを救いました。春は寒く湿潤で、開花にばらつきが見られ、ミルデューの懸念もありました。夏は比較的涼しく、8月は雨も降りましたが、9月に入ると乾燥した暖かい日が続き、ブドウはゆっくりと、しかし確実に成熟度を高めました。
左岸のメドック地区では、主要品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンは、夏場の涼しさの影響を受け、一部でやや軽やかな特性を持つものも見られましたが、9月以降の好天により多くの畑で健全に成熟しました。ワインは全般的にエレガントで、フレッシュな果実味と明確な酸、そして洗練されたタンニンを備えています。長期熟成のポテンシャルを持つものも見られますが、偉大なヴィンテージほどの凝縮感やパワーはありません。ポイヤック、サンテステフ、サン・ジュリアン、マルゴーといった主要地区では、丁寧な畑管理と選果が行われたシャトーで品質の高い赤ワインが生産されました。グラーヴ地区のペサック・レオニャンでも、シャトー・オー・ブリオンやシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンをはじめとするシャトーが満足のいく赤ワインと、品質の高い辛口白ワインを生産しました。辛口白ワインは、フレッシュさとミネラル感を兼ね備えています。
右岸のポムロールやサンテミリオンでは、メルローが全般的に良好な出来となりました。夏の比較的涼しい気候がメルローにとって有利に働いた地域もあり、豊かな果実味と柔らかな質感を持つワインが生まれました。9月以降の好天がブドウの成熟をさらに促しました。サンテミリオンの石灰質台地や、ポムロールの優れたテロワールでは、表現力があり、バランスの取れたワインが生産されました。シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・オーゾンヌ(サンテミリオン)、シャトー・ペトリュス、シャトー・ラフルール(ポムロール)といったトップシャトーは、優れたワインを生産し、右岸の可能性を示しました。右岸全体としては、左岸よりも全般的に成功したという評価も見られます。
ソーテルヌおよびバルサックの甘口ワインにとっては、優れたヴィンテージとなりました。9月以降の乾燥した温暖な気候と、それに続く貴腐菌(ボトリティス・シネレア)の理想的な発生条件が整いました。その結果、豊かなアロマ、複雑な風味、そしてバランスの取れた酸を持つ、優れた品質の甘口ワインが広く生産されました。シャトー・ディケムをはじめとする多くのシャトーで、素晴らしい甘口ワインが生まれました。
ブルゴーニュ
2008年のブルゴーニュは、生育期間を通じて気候の変動が大きく、厳しいヴィンテージとなりましたが、最終的には満足からすばらしい品質のワインが生産されました。春は寒く湿潤で、開花にばらつきが見られ、ミルデューの懸念もありました。夏は比較的涼しく、収穫前には雨が降った地域もありましたが、9月後半からの乾燥した北風(Bise)と日照がブドウを乾燥させ、健全な成熟を助けました。丁寧な選果が品質確保のために非常に重要となりました。
赤ワイン(ピノ・ノワール)は、全般的に酸が高めで、フレッシュな赤系果実の特性が際立つ、クラシックで生き生きとしたスタイルとなりました。タンニンは細かく、過度に抽出されていません。偉大なヴィンテージのような凝縮感や骨格はありませんが、純粋さと緊張感を備えています。長期熟成のポテンシャルはありますが、若いうちから楽しめる魅力もあります。コート・ド・ニュイでは、ジュヴレ・シャンベルタン、モレ・サン・ドニ、シャンボール・ミュジニー、ヴージョ、ヴォーヌ・ロマネ、ニュイ・サン・ジョルジュといった村名地区およびグラン・クリュ、プルミエ・クリュ畑で、それぞれのテロワールの個性が比較的ストレートに表現されたワインが生産されました。収穫量が少ない地域もありました。
コート・ド・ボーヌの赤ワインも全般的に良好な出来でした。ポマール、ヴォルネイ、アロース・コルトンといった村々で、エレガントで純粋な果実味を持つ赤ワインが見られます。酸が綺麗で、バランスの取れた仕上がりです。
白ワイン(シャルドネ)は、全般的に優れた品質と評価されています。引き締まった緊張感のある酸、ミネラル感、そして明確な果実味を持つワインが主流です。夏場の比較的涼しい気候と、9月以降の好天が、ブドウのフレッシュさと複雑さを両立させました。コート・ド・ボーヌの白ワイン産地であるムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェでは、ミネラル感が際立ち、層が豊かで複雑な白ワインが数多く生産されました。シャブリ地区でも、特徴的なミネラル感と活き活きとした酸を持つ優れた白ワインが生産されました。マコネ地区も全般的に良好な白ワインが見られました。全体として、ブルゴーニュの2008年は、品質が高く、特に白ワインが注目すべきヴィンテージと評価されています。
ローヌ
2008年のローヌ地方は、北部・南部ともに全般的に満足できるヴィンテージでした。挑戦的な気候条件もありましたが、最終的に品質の高いワインも生産されました。
北部ローヌでは、主要品種であるシラーは、夏場の涼しさと収穫前の雨の影響を受けやすい傾向がありましたが、9月以降の好天により品質が向上しました。ワインは全般的に軽やかな特性を持ち、フレッシュな果実味と引き締まった酸を備えています。偉大なヴィンテージのような凝縮感や骨格はありませんが、バランスが取れた楽しめるスタイルとなりました。エルミタージュ、コート・ロティ、クローズ・エルミタージュ、サン・ジョセフ、コルナスといった地区では、丁寧な畑管理が行われたシャトーで品質の高い赤ワインが見られました。ヴィオニエから造られるコンドリューなども満足できる出来でした。
南部ローヌも全般的に満足できるヴィンテージでした。グルナッシュは、夏の気候の影響を受け、一部で成熟が不十分だった地域もありましたが、9月以降の好天がブドウの品質を向上させました。ワインは全般的に軽めから中程度の骨格で、フレッシュな果実味とバランスの取れた構造を持ちます。シャトーヌフ・デュ・パプでは、エレガントで表現力のあるスタイルのワインが生産されましたが、偉大なヴィンテージほどの凝縮感や複雑さは限られていました。ジゴンダス、ヴァケイラスといった地区も全般的には満足できる出来でした。全体として、ローヌの2008年は、厳しい気候を経て、全般的に楽しめるワインが生産されたヴィンテージと言えます。
ロワール
2008年のロワール地方は、全般的に満足できるヴィンテージと評価されています。生育期間中の気候は変動しましたが、最終的には品質の高いワインも生産されました。
ソーヴィニヨン・ブランの産地であるサンセールやプイィ・フュメでは、フレッシュで引き締まった白ワインが生産されました。酸が綺麗で、ミネラル感も比較的よく表現されました。
シュナン・ブランの産地であるヴーヴレやモンルイ・シュール・ロワールでは、辛口、半辛口、甘口のいずれのスタイルも満足できる出来でした。一部で品質の高いものが生産されました。サヴニエールでも、満足できるシュナン・ブランが見られます。
カベルネ・フランを主体とする赤ワイン産地であるシノンやブルグイユでは、全般的に軽めから中程度の骨格で、表現力のある赤系果実の特性を持つワインが生産されました。タンニンは柔らかく、早くから楽しめるスタイルです。全体として、ロワールの2008年は、全般的に満足できる、特に白ワインに良好なものが見られたヴィンテージと言えます。
アルザス
アルザスは気温が低めに推移したものの、昼夜の寒暖差が大きく、ブドウの凝縮度が高まったことで、リースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカなどの白ワインがフレッシュで上質な仕上がりとなりました。
シャンパーニュ
2008年のシャンパーニュは、9月上旬から暑く乾燥した気候に恵まれ、完璧な成熟を迎えたことで、長期熟成に向く素晴らしいヴィンテージとなりました。果実味、酸、ミネラル感のバランスが非常に良く、歴史的にも高評価の年です。
イタリア
2008年のイタリアは、地域によってヴィンテージの評価に差が見られましたが、全般的に満足から良好な品質のワインが生産されました。
北部イタリアでは、ピエモンテ州は全般的に良好なヴィンテージでした。特に晩熟のネッビオーロは、9月以降の好天の恩恵を受け、満足できる品質のワインが生産されました。バローロやバルバレスコは、クラシックでエレガントなスタイルとなり、長期熟成のポテンシャルを持つものも見られます。ヴェネト州なども概ね満足できる出来でした。
中部イタリアでは、トスカーナ州は全般的に良好なヴィンテージでした。キャンティ・クラシコやブルネッロ・ディ・モンタルチーノのサンジョヴェーゼは、満足できるレベルに成熟し、構造と果実味のバランスが取れたワインが生産されました。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、品質の高いものが生産されています。
南イタリアも、地域によって状況は異なりますが、全般的には満足できるヴィンテージでした。全体として、イタリアの2008年は、一様に傑出しているわけではありませんでしたが、多くの主要産地で品質の高いワインが生産されたヴィンテージでした。
スペイン
2008年のスペインは、地域によってヴィンテージの出来にばらつきが見られましたが、全般的に満足から良好な品質のワインが生産されました。
リオハは、全般的に良好なヴィンテージでした。テンプラニーリョは、満足できるレベルに成熟し、バランスが取れ表現力のある赤ワインが生産されました。長期熟成のポテンシャルを持つものも見られます。
リベラ・デル・ドゥエロも全般的に良好なヴィンテージでした。テンプラニーリョ(ティント・フィノ)は、構造と果実味のバランスが良いワインが生産されました。
プリオラートでも品質の高いヴィンテージでした。カリニェナやガルナッチャは、凝縮感がありながらもバランスの取れたワインとなりました。その他の地域でも品質はばらつきましたが、満足できるワインが生産されています。全体として、スペインの2008年は、品質の面で満足から良好なヴィンテージと言えます。リオハ・アルタ、リオハ・アラベサ、リオハ・バハ、ペニャフィエル、ラ・オルミガ、グラタリョフス、ポボレダなどの村や地区が主要な生産地です。
ドイツ
2008年のドイツは、全般的に優れたヴィンテージと評価されています。特にリースリングから造られる品質の高いワインが広く生産されました。
生育期間は、夏場に涼しい期間がありましたが、9月以降の好天がブドウの成熟を助けました。収穫期には理想的な条件が整い、健全なブドウが収穫されました。モーゼル、ラインガウ、ナーエ、ファルツ、ラインヘッセンといった主要地域で、純粋な果実味、バランスの取れた酸、そしてミネラル感を備えたリースリングが生産されました。辛口ワインは全般的に品質が高く、緊張感と複雑さを兼ね備えています。遅摘みワイン(シュペートレーゼ、アウスレーゼ)も品質が高く、複雑さと凝縮感を備えています。極甘口ワイン(ベーレンアウスレーゼ、トロッケンベーレンアウスレーゼ)は生産量が限られましたが、品質の高いものが見られます。ベルンカステル、ピースポート、ヴェーレン、ヨハニスベルク、ルーデスハイム、デイデスハイムなどの村が主要産地です。
全体として、ドイツの2008年は、品質の面で優れたヴィンテージであり、特にリースリングは注目に値します。
アメリカ
2008年のアメリカ、特にカリフォルニア州は、厳しいヴィンテージでした。春の霜害や夏の乾燥、そして収穫期の天候変動など、様々な困難に見舞われました。しかし、丁寧な畑管理と選果を行った生産者からは、品質の高いワインも生産されました。地域差が非常に大きいヴィンテージでした。
カリフォルニア州では、春の霜害により収量が減少した地域が多くありました。夏は乾燥し、一部で干ばつの影響が見られました。収穫期には天候が変動し、丁寧なタイミングでの収穫と選果が品質確保のために不可欠でした。ナパ・ヴァレーやソノマ・カウンティといった主要地域でも、品質にばらつきが見られましたが、カベルネ・ソーヴィニヨンやその他の品種で品質の高いワインが生産されました。成功したワインは、凝縮感がありながらもバランスの取れた特性を持っています。ナパ・ヴァレーでは、厳しい年にもかかわらず注目すべきワインを生産した生産者が見られました。ソノマ・カウンティでも、地域や品種によって出来が異なりました。
オレゴン州やワシントン州も、全般的に満足できるヴィンテージでした。オレゴン州のピノ・ノワールやシャルドネは、満足できる品質となりました。ワシントン州でも、満足できる赤ワインが生産されました。全体として、アメリカの2008年は、厳しい気候により品質にばらつきが見られましたが、品質の高いワインも生産されたヴィンテージと言えます。
オーストラリア
2008年のオーストラリアは、地域によってヴィンテージの出来にばらつきが見られましたが、全般的に満足から良好な品質のワインが生産されました。
南オーストラリア州のバロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェール、クナワラといった地域では、全般的に良好なヴィンテージでした。シラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンは、凝縮感がありながらもバランスの取れたワインが生産されました。特に、一部の地域では熱波の影響を受けましたが、丁寧な対応を行った生産者からは品質の高いワインが生産されました。
西オーストラリア州のマーガレット・リヴァーも成功し、品質の高いカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネが生産されました。ヴィクトリア州やニューサウスウェールズ州の一部地域では、厳しい気候に見舞われた地域もありましたが、満足できるワインが生産された地域も見られます。全体として、オーストラリアの2008年は、地域によって品質に差が見られましたが、多くの主要産地で満足から良好な品質のワインが生産されたヴィンテージでした。