伝統と革新が織りなすサンテミリオンの名門
18世紀末のベルシエ伯爵による設立
シャトー・ベルフォン・ベルシエは、18世紀末にボルドーの有力貴族であるルイ・フランソワ・ド・ベルシエ伯爵(Count Louis-François de Belcier)によって設立されました。伯爵は18世紀末にサン・テミリオンの南向き斜面にブドウ畑を創設し、1803年にシャトーを建設しました。「ベルフォン(Bellefont)」という名称は「美しい泉(Belle Fontaine)」を意味し、近隣の粘土石灰質の丘陵に湧く天然泉からインスピレーションを得て命名されました。現在も使用されているシャトー建物は、この時期に建てられた歴史的建造物で、シャトー・パヴィやラルシ・デュカスに隣接する一等地の優れたテロワールに恵まれています。
19世紀の発展と円形醸造棟の建設
1871年にベルシエ家はシャトーを著名な農業エンジニアであるピエール・フォーレ(Pierre Faure)に売却しました。ピエール・フォーレは1870年代から1880年代にかけて、シャトーの象徴的な特徴となる独特の円形醸造棟(キュヴェ・シクルール)を設計・建設しました。この施設は自然光を取り込むドーム型天井を持ち、作業効率を大幅に向上させました。装飾的な鉄工細工がパリのエッフェル塔の設計者ギュスターヴ・エッフェルによるものという噂が根強く残っていますが、公式な記録では確認されていません。1892年にはパリ農業コンクールでボルドーワイン唯一の金メダルを獲得し、トップ生産者としての地位を確立しました。
20世紀の所有者変遷と近代化
1960年代には、近隣のシャトー・テルトル・ロートブーフを所有するフランソワ・ミジャヴィル(François Mitjavile)の従兄弟たちがシャトーを所有していました。この時期、ワインは「ル・テルトル(Le Tertre)」の名前で販売され、テルトル・ロートブーフのワインがベルフォン・ベルシエのセラーで数年間醸造されていました。1994年に大きな転換点を迎え、ピエール・フォーレの子孫であるラブスキール家(Labusquire family)がシャトーを、ジャック・ベレビ(Jacques Berrebi)、アラン・ラギヨーミ(Alain Laguillaumie)、ドミニク・エバール(Dominique Hebard)のパートナーシップに売却しました。この新オーナーグループはブドウ畑のテラス整備や醸造施設の近代化に投資し、著名な醸造家ミシェル・ロラン(Michel Rolland)をコンサルタントとして招聘してワインの品質向上と現代的なスタイルを確立しました。
国際化の進展とアジア系投資家による発展
2012年、シャトーは中国の王松為(Wang Songwei)ファミリーに売却され、中国資本によるボルドー格付けシャトー購入の注目例となりました。鉱物採掘やジュシン・ワイン・アンド・スピリッツを所有する実業家である王ファミリーは、1ヘクタール当たり約150~200万ユーロの記録的な価格で購入し、醸造施設とセラーの全面改修を行いました。2015年にジョン・レノス(John Renos)に売却された後、2017年に香港の実業家ピーター・クォック(Peter Kwok)が購入し、現在はボルドー右岸の7つのワイナリーを擁するヴィニョーブル・K(Vignobles K)グループの一部として運営されています。クォックの所有下でシャトー建物が全面改修され、品質と国際的評価がさらに向上しました。
グラン・クリュ・クラッセとしての現在の地位
シャトー・ベルフォン・ベルシエは、2006年と2012年のサン・テミリオン格付けでグラン・クリュ・クラッセ(Grand Cru Classé)に分類され、品質の安定性が評価されています。シャトーの総面積は20ヘクタールで、うち約14ヘクタールのブドウ畑が28の区画に分かれており、石灰質高台、粘土石灰質の南斜面、粘土砂質の3つの土壌タイプを持ちます。ブドウ品種はメルロー72%、カベルネ・フラン17%、カベルネ・ソーヴィニヨン11%で、樹齢平均35年のブドウ樹から年間約5,000ケースを生産しています。濃厚な果実味とスパイス、ミネラルのニュアンス、滑らかなタンニンが特徴で、ワイン・アドヴォケイトから94+点の高評価を受け、「サン・テミリオンの眠れる巨人の覚醒」として国際市場で注目を集めています。